■世界のファッションを支える日本製ミシンとファスナー
意外な分野で世界を制しているのがミシンです。戦後、日本政府が輸出を後押ししたことからブラザー工業やJUKIといったメーカーが世界市場を開拓し、現在では上位シェアを日本勢が独占しています。
家庭用ミシンはコンピューター制御で複雑な刺繍が可能となり、プロ仕様の工業用ミシンも世界中のアパレル産業で愛用されてきました。耐久性の高さは折り紙付きで、祖母から母へ、母から子へと世代を超えて同じミシンが使われ続ける光景も珍しくありません。外国製が安価に市場へ参入しても、日本製ミシンの信頼性には到底及ばないのが現実です。
また、普段は気にも留めない小さな部品であるファスナーも日本の独壇場です。世界最大のファスナーメーカーYKKは市場シェア40%超を誇り、年間売上は1兆円規模に達します。YKKの強みは原料から完成品までを一貫して生産する体制にあり、その精密さと滑らかさは他国が真似できない領域です。
さらに世界70カ国以上に拠点を持ち、顧客の近くで生産する仕組みを確立。アパレル業界からは「YKKなしでは服作りは成り立たない」とまで言われるほどです。
他人の利益を図らずして自らの繁栄はない――「善の循環」という経営哲学と日本のものづくり精神が、小さなファスナーの裏側に息づいているのです。
忘れてはならないのが電卓です。スマートフォン全盛の今でも、関数電卓は教育現場や研究の必需品として世界中で使われています。その分野をリードしているのが日本のカシオで、世界シェアの半分以上を握るのです。年間2000万台以上を出荷し、国や地域ごとの教育制度に合わせて60種類以上のモデルを展開。試験ではスマホ使用が禁じられるため、信頼できる電卓が不可欠ですが、そこで最も選ばれるのがカシオ製です。耐久性も群を抜き、10年以上壊れずに使えるとの声が海外ユーザーからも寄せられます。
日本が圧倒的な強さを発揮する製品群は、私たちの生活を陰から支えると同時に、日本のものづくり精神の結晶と言えるでしょう。
戸田蒼(とだ・あおい)
トレンド現象ウォッチャー。大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。