■「むしろ、松尾さんが言っていることは逆」元キー局Pの指摘

 松尾のYouTube動画内の発言が大炎上――その根本的なところには何があるのか――本サイトは、元テレビ朝日プロデューサーで、『ABEMA Prime』初代プロデューサーも務めるなど、ネットとテレビ両方のメディアに詳しい鎮目博道氏に話を聞いた。

「まず、SNSの最大の利点は情報発信できること。自由に世界中のことを発信できるし、受け取ることもできる。ユーザーはそこに一番喜んでいるわけで、SNSで社会が進んだところもありますよね。それによる炎上沙汰など弊害もあるわけですが。

 その上で、ユーザーがSNSと対極にあると感じているのが、テレビや雑誌などの既存メディア。いわゆる“オールドメディア”です」(鎮目氏、以下同)

 テレビや雑誌など、既存のメディアは選ばれた“プロ”しか扱えず、ユーザーが意見を発信することもできなかったが、SNSは違う。 

「その意味で言うと、芸人は、どちらかと言えばオールドメディアに出演する側の人間ですよね。そんな人が“一般人はSNSを使うな”と主張すれば、SNSユーザーからすると、SNSと正反対にいる人間に、SNSを全否定されたような気分になりますよね。SNSを根底から否定された感じになるわけで……だから、腹が立つ人が多いのも、炎上が収まらないのも、当然でしょうね」

 今回、問題となった発言はYouTubeの、それもコンビのメインチャンネルではなく、よりファン向けのサブチャンネルでのもの。過去にも、芸人が自身のSNSで泥酔して配信をした際に“暴言”を吐き、大炎上を招いたことがあったが――、

「これがテレビだったら、生放送でもない限りはカットされて絶対に世に出ないだろうし、事務所の人も100%全力で止めるでしょう。その意味では、内輪の小人数で作っているYouTubeだからこそ、“スルーして”出してしまったところはあるでしょうね。テレビだったら、誰かが絶対に止めたはずです」

 また、“素人”という言葉が特に批判を集めていることを、鎮目氏はこう分析する。

「何の”素人”なんだ、という話ですし、逆に言えばチョコプラは、何の“プロ”なんだ、という話になってくると思いますね。そうなると、結局のところ、“自分たちは情報発信をするプロで、自分たちの情報には価値があるけど、世間一般の人の情報発信に価値はない”と、言っているのと同じ意味になってしまうんです。やはり、ワードチョイスは悪かったですね……」

 松尾がヒートアップした背景には、後輩の稲田がSNSでユーザーから誹謗中傷レベルのことをされたから、という事情はあるものの、

「もちろん、稲田さんは非常に可哀相な立場にいたし、酷い投稿をした人を非難することはいいと思うんですよ。ただ、悪いことをした人だけが悪いわけで、SNS全ユーザーを否定してしまうのは……。たとえば、ある芸人が何か犯罪やスキャンダルで非難されたとして、“芸人が全員ダメだ!”と言われたら、当然、芸人たちは反論しますよね。それとほぼ同じことを、松尾さんはSNSユーザーにやってしまったわけです。

 松尾さんの稲田さんを想う気持ちには優しさを感じますし、SNSには想定外の展開が起きる危険な側面があるのも確かですが……今回は完全に言い過ぎでしたね。

 SNS上で、しっかりとした説明をしないで、端的にモノを言ってしまうと、誤解を招きやすいのも事実ではあります。対面だったらすぐに確認や反論をされて、そこでさらなる説明をすることができるけど、SNSではそれができないので、誤解が誤解を招くところがありますよね」

 そうしたことから、鎮目氏は「むしろ、松尾さんが言っていることは逆だと思う」と言い、こう続ける。

「SNSは、むしろ普通の人がやるべきで、プロとしてテレビで発言するのが仕事の人は、あまり不用心にSNSで発言しない方がいいと思うんです。

 一般の人は、ある程度自由に発言しても問題にならないことが多いですが、芸能人はより気をつけて発言をし、発信しなければいけないところがありますからね」

《インスタのアカウント乗っ取られてた稲田を誹謗中傷してた奴に向けての発言らしいから炎上すんのおかしくないか?》
《そら、業界のこともリアルな事も知らない蚊帳の外一般人がテキトーな事、嘘を拡散してたら怒るわな》

 など、松尾の発言に理解を示す声もあるこの騒動。果たして、終着点は――。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)