■新庄野球は選手の考える力を重視!
事実、1年目、2年目は最下位やった。ところが、この間、投手陣にも野手陣にも生きのいい若手が次々に育ち、3年目は堂々の2位。今シーズンも巨大戦力のソフトバンク相手に首位争いをしとるやないか。こうなるとアイツの育成や采配の力を認めるしかない。
この夏、ワシが「すっかり勝負師になったな」と感じたのは、8月5日、西武を相手に2点スクイズを決めた場面やった。
3点を先制した3回表、なお1死二、三塁の大チャンスや。ここで5番バッターの万波が1ボールから2球目を三塁側にバントで転がし、三塁走者も二塁走者も生還。これで試合の流れを完全に引き寄せ、6対1の圧勝やった。
常識的には万波のスクイズはない。なにしろ打席に立つのは、この時点で17本塁打のスラッガーや。普通は犠牲フライを考える。
しかし、人が考えんことをやるのが新庄の真骨頂。選手もそこを理解してるようや。監督がどんなサインを出すか分からん。だから、あらゆる事態を想定して考えるわけや。つまり、選手の考える力を重視するのが新庄野球とも言えるな。
他にも「初球ストライクをヒットしたら次にスタメンで使う」と公言し、積極的なバッティングを奨励したり、いろいろやってくれる。けど、強いチームに勝つには、こうした大胆な戦略は必要なのかもしれん。
何より若い選手が思い切りよくプレーしてるのがええわ。ベンチの雰囲気も明るい。みんな、新庄のことを信頼してるんやろう。
言い方は悪いけど、新庄剛志という異端の野球人が、従来のチームの空気を変えてしまった。アイツには人を引きつける不思議な魅力が備わっとるしな。
気の早いタイガースファンは「日本シリーズは日ハムと対戦したいですね」なんて言うけど、相手のことより、まずは、こっちがリーグ優勝を決めて、CSを勝ち上がらんとな。
川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。