日本競馬界のレジェンド・武豊が名勝負の舞台裏を明かすコラム。10月12日に東京競馬場で行われるアイルランドトロフィーにてアドマイヤマツリに騎乗予定の、彼のここでしか読めない勝負師の哲学に迫ろう。
個人馬主としてJRA通算2000勝という不滅の大偉業を成し遂げた記念の日から、わずか6日後の8月29日、“メイショウ”の松本好雄オーナーがお亡くなりになりました。
51年の長きにわたり、競馬界を支えてきてくださったオーナーの突然の訃報を耳にして、3週間余りがたちましたが、いまだに信じられない、信じたくないという気持ちです。
数多くのジョッキーから「自分たちも献花したい」という声が上がり、13日阪神の最終レース終了後に、メイショウの勝負服である桃色と青のカーネーションで彩られた献花台の前で、オーナーに感謝の気持ちを伝えながら、オーナーとのご縁を思い出していました。
松本オーナーが挙げたJRA2002勝のうち、僕が勝たせていただいたのは、173勝。重賞も、1995年にメイショウレグナムで挙げた小倉大賞典での勝利を皮切りに、メイショウカイドウで5勝。メイショウナルトでは小倉記念(13年)。
GⅠは、メイショウサムソンで07年の天皇賞(秋)、今年6月に挙げたメイショウタバルで宝塚記念と2勝。僕自身の区切りとなるJRA通算3600勝(メイショウインロウ)、3900勝(メイショウヴォルガ)、4000勝(メイショウカズヒメ)も、松本オーナーの馬で達成した記録です。
松本オーナーとの思い出は、数えきれないほどたくさんありますが、思い出すのは、亡くなった父・邦彦と、しょっちゅう、お酒を酌み交わしながら、競馬談義をしていた姿です。
悲しみが癒えることはありませんが、僕にできるのは、松本オーナーの遺志を継ぎ、競馬を、もっと皆さんに見ていただけるものにするために、全力を尽くすことだけです。
再び、父と美しいお酒を飲みながら競馬談義に花を咲かせ、ときには、「ユタカも、まだまだやな」と、厳しく見守っていただければ嬉しいですね。