「今年の夏はあまり蚊に刺されなかったな……」

 そう感じている人も多いのではないだろうか。だが、安心するのはまだ早い。実は猛暑が落ち着くこれからの時期こそ、蚊の活動がピークを迎えるという。

「夏の風物詩とも言われる蚊ですが、彼らの適温は30度前後。35度を超えると“夏バテ状態”となって動きが鈍くなり、数も少なくなります。

 今年の夏は猛暑だったので、蚊の活動が活発化するのは、気温が下がって雨が増える秋だと予想されます。11月頃までは注意が必要ですね」(生活情報誌ライター)

 赤い腫れと、延々と続くつらいかゆみ……できるだけ、刺されないように過ごしたいと願うばかりだが、そんな蚊にまつわる興味深い研究結果が報告された。実は、蚊には感覚を研ぎ澄ます「やる気スイッチ」があるのだというのだ。

「大手化学メーカーの花王と理化学研究所の共同研究チームが行った実験で、CO2(二酸化炭素)が蚊の“ヒトを刺したい”というモチベーションを高める可能性があるという結果が出たと、今年の8月に発表されたんです」(前同)

 同研究チームは、感覚刺激に対する行動を詳細に把握できる仮想空間装置に、ヒトに見立てた1本の黒い線を蚊に見せる実験を実施したのだそう。

「そこで蚊の動きに合わせて線を動かすと、二酸化炭素を察知する蚊は、その追跡行動がより正確になることが確認されたんです」(同)

 二酸化炭素が蚊を呼び寄せる要因の一つというのはこれまでも知られていたが、モチベーションを高めるとは、いったいどういうことか。

 研究を行った花王の広報部に詳しい話を聞いてみた。 

「蚊は主に上顎ひげにある感覚器官を通じて、空気中の二酸化炭素を感知していますが、今回の実験では、それが視覚情報やにおいに対して示す反応を一層強めている可能性があることが分かりました」(花王広報部)

 つまり蚊は、目で見る以上に二酸化炭素で対象の位置を把握しているということのようだ。

「蚊はヒトを視覚で捉えた後も二酸化炭素を感知し続け、モチベーションを高く保ちながらヒトを追いかけることが確認されたんです。蚊にとって見えづらい明度でも二酸化炭素を感知することで追えるという結果も出ています」(前同)