■意識の変化は保守化ではなく合理的な選択

 経済学のディファード・コンペンセーション理論は、年功序列の合理性を裏づけており、若い時期は賃金が相対的に低く、勤続とともに昇給が続くことで後年には生産性を上回る水準に達するという報酬カーブが、従業員に「長く働けば報われる」という信頼感を与え、努力や忠誠を持続させる効果を持つとされます。経営学でも企業特殊的資本の蓄積が重視され、同じ組織に長く在籍することで培われるノウハウや人間関係は他社に容易に移転できず、定着した人材が組織の生産性を底上げすることが知られています。

 心理学からは心理的安全性が挙げられます。これは失敗を恐れずに発言や挑戦ができる雰囲気を指し、雇用の安定はこうした環境を整えやすい一方、短期契約や過度な成果圧力の下では人は無難な選択に流れがちになる、といった見方もあります。こうした研究成果が示すのは、年功序列や長期雇用が安心と蓄積を通じて組織成果を底面から支えるという事実であり、新入社員の意識変化は単なる保守化ではなく合理的な選択と言えるのではないでしょうか。

 ネット上でも様々な声が寄せられています。《成果主義って言えば聞こえはいいけど、要は給料を下げやすくする口実だよね》《どっちか極端じゃなくていいとこ取りした制度が理想だよな》《初任給が高いのはいいけど正直スキルが見合ってない自覚はある。だから成果主義だと困るってのは本音かも》《安定は欲しいけど働かないおじさんが高給取りなのは納得いかない。そのバランスが難しいんだよな》といった本音が目立ちます。こうした声は成果主義そのものではなく、日本における成果主義の運用への不信感を映しているとも受け取れるのではないでしょうか。

「今回の調査は、若手が挑戦心を失ったというよりも、制度への不信感や不透明感の反映と見るべきです。成果主義と年功序列は二者択一ではなく、両立のための制度設計が企業に求められています。安定と挑戦の両方を担保できる仕組みこそが、新しい人材マネジメントの鍵になるでしょう」(就職情報サイト編集者)

 若者のマインドの変化に合わせ、企業側には安心と挑戦をどう組み合わせるかという視点で制度設計を進めることが求められていきそうです。

戸田蒼(とだ・あおい)
トレンド現象ウォッチャー。大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。