■『べらぼう』松平定信は蔦重と和解するか

 春町(岡山)の自死を知った定信(井上)は、布団部屋の布団に顔を埋め慟哭する。ドラマ『大奥』(フジテレビ系)などでは、定信は権威主義の嫌なやつとして描かれてきた。しかし、実際は田沼政治を受け継いだうえで、幕政の建て直しを図ったまっとうな人物というのが主流の見方だ。今回の自身の政務に対する苦悩を描き、定信を人間味がある人物としたのは、ドラマ史上では画期的だ。

 そのため、X上では、《松平定信が黄表紙好きってのは嘘でもなかったのか。でも最後の嗚咽は「俺が悪いのかよ。俺が世間に甘い顔すれば世の中がよくなるのかよ、ちがうだろ。誰に恨まれようと改革をとめるわけにはいかないんだよ」ということか》など、定信の心情に対する反響も大きかった。

 一方で、治済(生田)はあいも変わらず憎たらしさ全開。《定信にしても自分のせいで推しが腹を切ったわけで…誰も幸せじゃない…全ては一橋治済が定信を煽りまくったせいだ!おのれ~生田斗真め~》《真面目な人が真面目な人を追い込んでしまった。悪いのは生田斗真》など、定信に同情しつつ、治済を演じる生田を憎む声が。

 また、《松平定信が後半のボスキャラ格になると思われてた訳だが、ここまでの描き方的にこれ蔦重とは和解ルートっぽいというか、何なら失脚後の定信を「早逝した蔦重の志を継ぐ者」として描く感じにしそうだな》と、定信は失脚後、蔦重(横浜)と和解して出版に関わると予想する声も。

 劇中でも定信は黄表紙好きとして描かれているが、史実でも、改革中に弾圧した大田南畝、朋誠堂喜三二、山東京伝らに浮世絵集『近世職人尽絵詞』の合作をさせている。本作でも最後に定信がヒールから転じていい人で終わる可能性は高そうで、これも実現すれば、けっこう画期的だろう。

 今後は定信失脚の原因のひとつとなる、尊号一件(典仁親王への尊号贈与を定信が退けた)も描かれるはず。ここまでのキャラ造形から見て、今後も定信の苦悩が描かれそうだ。一方、対立する治済はますます嫌なやつとして描かれるだろう。これまでにない人気キャラとなった定信に注目したい。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。