■10年間の積み重ねが優勝へとつながった

 しかし、急に強くなったわけやない。球団が長期ビジョンの下、チーム力の底上げをしてきた成果や。

 例えば、今年9年目、野手のレギュラー陣では最年長の大山悠輔、当時監督だった金本が絶対にモノになると見込んで、ドラフト1位で指名した選手やからな。

 オカ(岡田彰布)の監督時代には4番を任され、今季は5番にどかっと座ってチームを支える。

 それにしても、大山、佐藤、森下と主軸全員がドラ1や。今、他球団を見てもドラフト1位の日本人選手3人がクリーンアップを打ってるチームはタイガース以外にない。過去にもあまり見たことないわ。それだけ編成部のドラフト戦略が成功してるちゅうわけや。

 今季もチームの盗塁数はタイガースがダントツやけど、これは矢野燿大の遺産といってもええ。矢野は二軍で監督してた頃から、盗塁へのチャレンジ精神を推奨してきたからな。結局、4年監督を務め、2位が2回、3位が2回。優勝はできんかったけど、チームは確実に成長した。

 そうした土壌に、オカが「勝つ野球」を選手に叩き込んだ。例えば1番から9番まで状況に応じたバッティングをすること、ボール球に手を出さないことを徹底させた。今季もタイガースの四球数は両リーグを通じて1位。個人成績の四球数を見ても、1位の大山を筆頭に、上位はタイガース選手が占めとるからな。

 投手もムダな与四球が少ない。そして勝負どころではインコースの厳しいところをズバッと突く。坂本のリードも見事やし、そこに投げ切ることができる投手のレベルも非常に高い。

 要するにタイガースは10年近い歳月をかけ、ホンマモンの戦う集団になったということや。それを預かる球児もルーキー監督とは思えない落ち着いた采配で、優勝へと導いた。

 繰り返しになるけど、今シーズンの栄冠は選手、監督、コーチ、球団フロント……全員が一丸となって手にしたものや。タイガースは、まだまだ強くなるぞ。

川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。