■江口寿史氏“トレパク疑惑”の法律的問題点を弁護士が解説

 騒動を受け、江口氏が出演する予定だった「中央線文化祭2025」でのトークショー「中央線と漫画と人生と」の中止も発表された。

 さて、江口氏のトレパク疑惑はどんな法律に抵触するのか――弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士に解説してもらった。

――江口氏のトレパク疑惑は法律的にはどのような問題があり、具体的にどんな法律に触れるのでしょうか?

「この点は、結論から言うと主に著作権法と肖像権(場合によってはパブリシティ権)、そして民法上の不法行為が軸になります。もしSNS上の写真を『依拠』して、その写真の創作的な特徴――たとえば構図、角度、光の当て方、被写体の配置や特徴点――がわかる形でイラスト化していれば、著作権法では翻案権(27条)や複製権(21条)の侵害に当たり得ます。

 トレースという技法自体は中立ですが、商用告知として公開する段階になると、依拠性と本質的類似性の組み合わせで侵害判断が現実味を帯びてきます。さらに、元写真の著作者が別にいるのにクレジットを外したり、原作品の趣旨を損なう改変をすれば、著作者人格権、とりわけ同一性保持権(20条)や氏名表示権(19条)の問題も出てきます。

 同時に、人物の顔立ちが特定できる形で無断利用されていれば、肖像権という人格的利益の侵害として民法709条の不法行為責任が問題になります。広告・販促の文脈で、その人物の顧客吸引力自体を利用していると評価される場合は、パブリシティ権の侵害が争点になることもあります。

 ここでよく誤解されるのが『事後承諾でも大丈夫か』という点で、被写体本人の同意と、写真の著作権者(撮影者やその所属)の許諾は別物です。どちらか一方だけでは適法化できないことが珍しくありません。だからこそ、企業が『確認が済むまで使用見合わせ』とするのは、権利クリアランスが未了の段階では最も合理的な危機管理対応と言えます」(正木弁護士、以下同)

――法律的に問題があった場合、どのような刑罰になるのでしょうか?

「刑事処罰の射程に入る可能性があるのは、主として著作権侵害です。肖像権やパブリシティ権は、原則として民事(差止と損害賠償)で解決する領域です。著作権法の故意侵害が成立する場合、119条により最長10年の拘禁刑、または1000万円以下の罰金、あるいはその併科が規定されています。

 法人が関与していれば、124条の両罰規定により法人自体にも3億円以下の罰金が科され得ます。もっとも実務では、広告案件の単発事例はまず民民の話し合いで差止と賠償、クレジット是正や在庫の回収・廃棄などを整理し、悪質性や反復性が強いときに限って刑事的な対応が検討される、というのが一般的な落とし所です」

――江口氏のイラストを広告などのビジュアルで使っていた企業が、次々と使用を見合わせています。一連のイラストを使うことで企業にも法律的な問題が生じるのでしょうか?

「企業側にも法的リスクは生じ得ます。発注先が制作したイラストであっても、企業がそれをサイトやポスター、SNS広告で公衆送信・頒布・展示すれば、企業自身が著作権法上の利用主体として侵害に当たり得るからです。いわゆる“知らなかった”は直(ただ)ちに免責にならず、必要な権利処理を怠った過失が問われる余地があります。

 被写体本人や元写真の著作権者から見れば、作者と企業を並べて損害賠償や差止を請求するのは自然な訴訟構造で、民法719条の共同不法行為が視野に入ります。そのため、各社が迅速に使用を止め、事実関係と許諾の範囲を確認するのは、法的にもレピュテーション(評判・風評)管理の面でも合理的な対応と言えます」

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 沈黙を貫いている江口氏だが、近いうちに声明を発表することになるようだ。

●プロフィール
正木絢生(まさき・けんしょう)弁護士
弁護士法人ユア・エース代表。第二東京弁護士会所属。消費者トラブルや交通事故・相続・労働問題・詐欺・薬物など民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。

BAYFM『ゆっきーのCan Can do it!』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などメディア出演も多数。YouTubeの「マサッキー弁護士チャンネル」にて、法律やお金のことをわかりやすく解説、ユア・エース公式チャンネル「ちょっと気になる法律相談」では知っておきたい法律知識を配信中。
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