■「通知表なし」で生まれた意外なメリットと必要となる「保護者の力」とは
ただし廃止に踏み切った学校からは成果も報告されているようです。東京都内のある小学校では2023年度から全学年で通知表を廃止。教師からは成績処理にかける時間が大幅に減り、授業準備や児童への個別対応に時間を割けるようになったと歓迎されているそう。従来は1人の通知表作成に30分以上を費やすこともあったことを考えると、負担軽減の効果は大きいと言えます。
しかし課題も残ります。一部の教員からは「どこで努力したのかを家庭に伝えるのは難しい。紙一枚で一斉に渡す形式をなくした分、日々のやりとりや面談で丁寧に説明しなければならない」との声が聞かれ、保護者側からも「父母のどちらかが面談に出られないと情報が十分に共有されない」との不安があり、従来の通知表が家庭内での共通認識を担っていたことを考えると、代替手段が求められるのが現状です。
ネット上でも通知表の廃止にはさまざまない意見がズラリ。
《廃止でいいと思う。評価も曖昧なところがあって、点数が低いと子どもがネガティブな気分になる》
《各教科のどこに課題があるのか、どういう分野が得意なのかを保護者に納得のいく口頭での説明が出来ないといけないから、より細かな資料を集めないといけなくなりそう》
《小学校低学年には通知表は、なくてもいいと思う。面談で先生から直接学校での様子を聞けるのはとても良いと感じる》
《子供の頃、通知表を受け取るのがうれしかった。できていない自覚があるものが評価されていなかったり、頑張った教科が良い評価を受けていると、ちゃんと先生が見てくれていると感じられて頑張れた》
といった賛否が寄せられています。
「通知表廃止は教育現場の働き方改革として理解できますが、問題は家庭の受け止め方。従来の紙の評価は一目でわかり、親子間の対話のきっかけになってきました。無くなることで日常の会話から子供の学習状況を引き出す力が親に求められます。学校任せではなく、家庭が教育のパートナーとして関わる姿勢が大切で、評価の形式が変わっても子供に『見てもらえている』という実感を与えなければ、廃止の意義は半減します」(教育関係者)
通知表の廃止をめぐる議論は、小学校教育のあり方そのものを問い直す契機となりそうです。
戸田蒼(とだ・あおい)
トレンド現象ウォッチャー。大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。