教科書には載っていない“本当の歴史”――歴史研究家・跡部蛮が一級史料をもとに、日本人の9割が知らない偉人たちの裏の顔を明かす!
『仮名手本忠臣蔵』で吉良上野介の例えに用いられた南北朝時代の武将が高師直(こうのもろなお)。塩谷判官を辱めたために殿中で斬られて負傷し、後に判官の遺臣に討たれたからだ。
塩谷判官は実在の人物で、その妻は三国一の美女と讃えられていた。師直はこの美女に横恋慕。女装して塩谷邸へ忍び込み、彼女の部屋のふすま障子の奥に身を潜んで、その湯上がり姿を覗き見た。彼はそんな破廉恥な武将として語り継がれてきた。
また、師直は幕府の執事(後の管領)としての権勢をかさに、高貴な娘たちを自邸に囲い、特に前関白の妹を盗み出して彼女に子を産ませたと伝えられている。
さらに師直は天皇へ暴言を吐いた人物としても歴史に名を刻んでいる。『太平記』によると、「もし王(天皇)がいなくてもかなう道理があれば、木をもって造るか、金をもって鋳るかして、生きている院・国王(上皇・天皇)はいずれかへ流し捨ててしまえ」と言ったという。
しかし、歴史学者の亀田俊和氏によると、こうした師直に関する記述や逸話の多くは正平3年(1348年)正月の四条畷(大阪府)の合戦以降に集中しているという(『高師直-室町新秩序の創造者/吉川弘文館』参照)。