日本競馬界のレジェンド・武豊が名勝負の舞台裏を明かすコラム。11月2日の天皇賞(秋)ではメイショウタバルに騎乗予定の、彼のここでしか読めない勝負師の哲学に迫ろう。

 世界中のホースマンが憧れる“世界最高峰のレース”凱旋門賞は、最後の直線で、アイルランドの名門A・オブライエン厩舎の3歳牝馬ミニーホークと、地元・フランスの3歳牡馬ダリズの一騎打ち。

 火の出るような激しい叩き合いの末、最後はフランスのダリズがアタマ差抜け出し、栄光の座を掴み取りました。

 日本から挑戦したビザンチンドリーム(5着)、クロノデュノール(14着)、アロヒアリイ(16着)は、世界の壁に跳ね返され、日本競馬の悲願は、来年以降に持ち越しとなりました。

「毎年のように、日本の最強馬が挑戦し続けているのに勝てないということは、永久に凱旋門賞を勝てないのでは?」

 という厳しい言葉が囁かれていることは知っていますが、僕は必ずしも、そうだとは思いません。

 馬の力だけで測るなら、ヨーロッパで戦ってきた強豪馬とも十二分に勝ち負けになります。

 足りないのは、ほんのわずかな差……レース当日の馬場状態であったり、枠順であったり、レース展開であったりという、人智が及ばない、“運”という言葉で表現される気がします。

 どれか一つでも違っていたら、結果は変わっていたはず。凱旋門賞に勝つために必要なのは、諦めずに挑戦し続けること。それができれば、近い将来、必ず扉は開くはずだし、その扉をこじ開けるのは、この僕でありたいと、ホワイトマズルをパートナーに初めて挑戦した(1994年)ときから変わらず、ずっと思い続けています。

 今年は、グリーンチャンネルのスタジオからの観戦になりましたが、僕がいるべき場所はスタジオではありません。ジョッキーである以上、目指すはロンシャン競馬場です。来年はパートナーと一緒に、ロンシャン競馬場のゲートでスタートの瞬間を迎えたいと思っています。