■技巧派左腕大竹のピッチングに注目

 タイガースの大竹も、その存在は非常に大きい。一昨年の日本一も、今年のぶっちぎりの優勝も大竹がおらんかったら、どうなったことか。ソフトバンク時代は5年で10勝。ところがタイガースでは3年で32勝。しかも、3年連続で防御率は2点台をマークした。

 才木浩人、村上頌樹、高橋遥人といった速くて強いボールを投げる先発陣の中にあって、大竹のような技巧派のサウスポーは貴重や。大竹が一人いるだけで、変化がつく。日によってまったく違うタイプのピッチャーが出てくるわけやから、相手チームは嫌なもんや。

 ワシは大竹のピッチングを見とると、投球というのはホンマにおもろいな、奥が深いなと思う。150キロ以上を投げるのが当たり前の時代にあって、大竹が放る真っすぐは140キロ前後や。この真っすぐで相手バッターを差し込むことができるからな。それだけ球種が豊富で、コントロールもいい。軽く投げる感じで、簡単にストライクを奪う。

 フォームはボールの出どころが分かりづらいし、真っすぐとツーシームやカットボールとの見分けがつきにくい。変化球の中でも大きな武器となっているのがチェンジアップやろう。初球にチェンジアップをド真ん中にポンと放って、ストライクを取るのを見てると、キャッチャー・坂本誠志郎との息もピッタリや。

 野球ちゅうのはよくできたスポーツで、低めのゾーンの内側と外側に、きっちり制球されたボールは、バッターが芯で捉えても、打球は野手の正面を突く。

 大竹のマウンドさばきもええな。どんなピンチになっても、顔色一つ変えることなく、堂々と、自信を持って投げ込んどる。

 ワシは、ふと大竹がメジャーのスラッガーと対戦したら、どんなピッチングを見せるやろうかと考える。もちろん、メジャーには行ってほしくはないけど、大竹が向こうの強打者をきりきり舞いさせる姿を、ちょっと見てみたい気もするな。

川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。