■『ばけばけ』の画期的なところは

 さらに朝ドラの第1週以降はしばらく視聴率が落ちがちなこともあって、本作も急落するかと思えば、踏みとどまっている。意外にもX上では、《誰も悪くないのに居心地の悪さ満載。新感覚の朝ドラ》《毎日どこかがしんどかったけれど、何かしらホッとするシーンもあって、盛り上げよう、とかではなくて、小さな物語を綴るようにそっと流れるのがとても良かった》などと、評価は悪くない。

 次週は史実通り、銀二郎が松野家から逃げ出す流れで、暗い展開はまだ続くだろうが、そんなに視聴率は下がらないだろう。暗いのは確かだが、視聴者の指摘にある通り、ただ暗いだけじゃなく、常に楽観的なスタンスが貫かれている。これが本作が支持される理由だろう。

 たとえば、トキが司之介とフミ(池脇千鶴/43)夫婦の実の娘ではないというエピソード。23年後期『ブギウギ』では、スズ子(趣里/35)の出生の秘密は悲劇的な雰囲気で描かれていたが、『ばけばけ』では、銀二郎が同じ部屋にいるのに、司之介が秘密をペラペラとしゃべってしまう。そんなツッコミたくなるような描き方こそが本作の魅力なのだ。

 朝ドラで苦境などの鬱展開は当然あるが、通常は苦境をたくましく生き抜いて抜け出すのがパターン。だが、『ばけばけ』は苦境を“ゆるゆる”と生き抜いていくという姿勢を感じる。ハンバート ハンバートによる主題歌『笑ったり転んだり』の歌詞の内容もまさにそれである。要するにかなり野心的な朝ドラなのだ。

 この魅力は、ハマると抜け出せない。物語の流れのように、視聴者の支持も“ゆるゆる”、“じわこわ”と拡大していかもしれない。次週予告では、大ヒット映画『国宝』に主演して話題の吉沢亮(31)がついに登場。銀二郎との別れの先にある、トキの人生がどう描かれるのか、期待して待ちたい。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。