■“加害者”の個人情報拡散に、法的な問題はないのか
一方で、実行者の女子高生の個人情報が次々と暴かれている状況に対し、
《やりすぎ》
《めちゃめちゃ個人情報拡散されてるけど、拡散してる奴は正しい情報かどうかも知らないで無責任にやってるのがこえー》
などと冷静な声も少なくない。
迷惑行為に厳しい対応があるのは当然としても、“加害者”の個人情報を拡散することに、法的な問題はないのか。弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士に解説してもらった。
正木氏は「“加害者なら拡散してよい”という空気は現実に存在する」としたうえで、“法的な見方”を示す。
「人が義憤や私的制裁の衝動で行動しやすく、店舗や社会への迷惑を“正す”つもりで実名・学校名を広める心理が働くため、“加害者なら拡散してよい”という空気感は生まれ得ます。
しかし法的評価は別です。未成年を含む私人の実名・在学先・家族情報の拡散は、それが仮に公益性に関するものであっても、その行為の真偽や処分の確定にかかわらず、名誉・プライバシー権を侵害し得ます。店舗や警察が対応に着手している段階では、市民が私的に制裁情報を拡散する必要性は低く、また、公益性の立証も難しいと考えられます。逮捕や起訴、判決などの公的処分が確定する前では違法評価に傾きやすいと言えます」(以下同)
個人情報の拡散は違法であるということ。では具体的にどういった「罪」になるのか。
「個人情報の拡散は、刑事では名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(同231条)に該当し得、民事では民法709条の不法行為(名誉・プライバシー侵害)として損害賠償責任が生じ得ます。
名誉毀損は“公然と事実を摘示して社会的評価を低下させる”ことで成立し、内容が真実でも構成要件には該当し、のちに公共性・公益目的・真実性(または真実相当性)で違法性が阻却されるか(編集部註:違法でないとみなされるか)を個別に審査します。未成年・私人の実名晒しについては公益性の立証が難しく、違法性阻却が認められにくい傾向です。
侮辱罪は事実の摘示がなくても成立し、強い嘲笑・蔑視表現の付加でリスクが上がります。さらに虚偽の事実や誇張的断定で店舗・企業の信用を害すれば、信用毀損罪(刑法233条前段)、偽計業務妨害罪(刑法233条後段)、威力業務妨害罪(刑法234条)の射程もあり得ます。“加害者なら拡散してよいか”という問題については、結論として“いいえ”で、公益報道に準じる厳格な要件を満たさない私刑的拡散は原則として違法評価に傾きます」