『読書の秋』が本格化。肌寒く感じるこの季節にこそ、じんわり心が温まる恋愛小説を手に取りたいところだ。
今回は、元アイドルで小説家の宮田愛萌さんが“泣ける恋愛小説”をテーマにおすすめの作品を5冊紹介。それぞれの魅力について語っていただいた。
まずは、島本理生の『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』(幻冬舎文庫)。“おいしいものを食べるだけ”の関係だった男女が、やがて惹かれ合うようになる。そして、男が主人公にある秘密を告げる……といったオトナの恋愛模様を描いたストーリーだ。
「とにかく描写されているご飯がおいしそうなんです。それこそ、サンマを食べるシーンもあるのでこの季節にもピッタリかもしれませんね」(宮田さん=以下同)
また、1つ1つの章が短いのも忙しい現代人にはありがたい。長編のような読後感はありつつも、通勤中や昼休みにでも気軽に読める分量なのもおすすめしたい理由だという。
「仕事に奮闘する主人公の姿は、働く女性なら共感できるはず。30代という年齢もあって、“好き”の気持ちで突き進むのでなく、“この先の人生を共にするとしたら”っていうことを考えながら、恐る恐る進んでいく恋愛なんです。
また、この主人公には良き友がいるのですが、その子も恋をしている。そんな多角的な視点でお話を読めるので、恋愛、友情の両方から心に響く作品だと思います」
そして宮田さんが次に選んだのは、理性では抑えきれない“禁断の恋”を描いた一冊。江國香織の著書、『ウエハースの椅子』(新潮社)は、妻子ある男性と恋に落ちた画家の主人公のお話。恋することの幸せと孤独を描写した作品だ。
「いわゆる『不倫関係』の話なんですが、主人公にとって、それは重要ではないというのがポイント。ただ一緒にいて、ときどき未来の話を口約束して……というのが満ち足りた時間なんです。過去の恋人のことなんて思い出せないくらいに、この恋人のことを心から愛している。それが私から見ると羨ましく感じるし、不思議な世界観にちょっとだけ旅してるような気持ちになれるんです」
また、『恋愛小説の女王』と称される江國香織の繊細で心惹かれる言葉の表現にも注目してほしいと続ける。
「ときどき『絶望』が彼女の元にやってきて、帰っていく描写があるんです。それも、馴れ馴れしく話しかけながら人間のように振舞って。主人公も抵抗はしてみるものの、振り回されていて諦めるしかない。彼女はどこか寂しくて、ずっと泣きたいのを我慢してる。その所在なさを引き留めているのが既婚者の恋人なんです。読むうちに心がキュッと締め付けられる、そんな作品です」