■国外の恋愛小説も魅力的なものが多い
国外の恋愛小説も魅力的なものが多いと語る宮田さん。映画館や動画サブスクリプションで出合う映像作品から、原作の小説へと踏み込んでいくのも読書のきっかけとしてはおすすめだという。
「原作小説の醍醐味は、“文字を通して、自分の想像する世界になる”こと。映像と違って誰かの解釈を介さない分、ズレも起きません。本はイヤホンも電源もいらないので、どこでも楽しめる娯楽ですね」
そんな彼女が映画をきっかけに手に取ったのが、ジェーン・オースティン著の『高慢と偏見』(中公文庫)。18世紀、女性に相続権がない時代のイギリスを舞台とした作品だが、田舎町に住む主人公が、隣家に越してきた裕福な青年と誤解を重ねながらも惹かれ合っていく――そんな“すれ違い”の恋を描いている。
「恋人となるお金持ちの青年ですが、一見高慢な態度なので誤解をされやすい人柄。そんな彼を主人公が自分の父親に紹介するシーンにはグッときました。家族に相手のことを伝える時って、愛情が滲みやすいんですよね。特に昔の海外作品は、私たちの言葉選びや感覚とはかなり違う印象があります。昔の本を読んで、時の流れに思いを馳せる時間も素敵だと思うんです」
恋の在り方に性別は関係ない。そう思わせてくれる作品は、2015年に映画化もされたパトリシア・ハイスミス著の『キャロル』(河出文庫)。デパートのおもちゃ売り場で働く主人公と美しい人妻が恋に落ち、その経験を通して主人公が成長していく物語だ。
「この作品はクリスマスシーズンのお話で、秋の深まった頃に読んでほしいですね。この本の魅力は、ただの恋愛模様だけでなく、恋をすることによって強くなる主人公の姿。あまり自分の意見も言えない少女が、元恋人にはっきりと“ノー”を言えるようになったりと一歩踏み出せるようになっていくんです」
女性同士の“未来の見えない”関係。それでも、相手を全力で愛そうという主人公に心が打たれると宮田さんは続ける。
「実際に元恋人からは“学生のような恋愛だ”と追及される描写を読んで、泣きそうになったんです。周りからは子供っぽい恋と言われようが、本人からすると本気の恋愛で夢中の関係。そんなひたむきな姿は、思わず胸に迫るものがありました」
最後に紹介してくれたのは、日本の古典文学。紫式部の『源氏物語』といえば、学生時代に教科書で見たことがある人も多いかもしれない。主人公『光る君』と彼を取り巻く雅な女性たちの恋模様を描いた文学だが、その内容は思ったより“俗っぽい”という。
「私のイチオシの登場人物は『夕顔』という女性。一途でしおらしい少女なんですが、見方をかえるとあざといしたたかな側面も感じられるのが魅力なんです。光る君と恋仲になったのも、庇護してもらえるのならば……という打算もあったように感じられて。そして光る君側も、幼馴染の『頭中将』の想い人だった落ちぶれた貴族の女性、という立場に興味があって打算的な気持ちで近づいたはず。そんな二人の関係性がなんだか現代にも共通している気がするんですよね」
ちなみに、宮田さんの恋愛小説を読むおすすめのタイミングは“夜”。
「ホラーやミステリーって、ドキドキしてその後眠れなくなるかもしれないじゃないですか? 結ばれるのか、別れるのか、どちらになるかはわからずとも明確な結末のある恋愛小説は、夜の読書にぴったりだと思うんです」
秋の夜長には、恋愛小説を。たまには手に持ったスマホを置いて、ゆっくり読書の世界に浸ってみては?
宮田愛萌(みやた・まなも)
小説家、タレント
1998年4月28日生まれ、東京都出身。2023年アイドルグループ卒業時に上梓した『きらきらし』(新潮社)で小説家デビュー。現在は文筆家として小説・エッセイ・短歌などジャンルを問わず活躍。ほか、主な著書に『あやふやで、不確かな』(幻冬舎)、『春、出逢い』(講談社)『おいしいはやさしい』(PHP研究所)などがある。また、タレントとして、”本”に関するテーマでテレビ、トークショー、対談などに出演する。