■テルはまだ発展途上50本塁打を目指せ!
タイガースの歴史を見ても、ブッちゃん(田淵幸一)、カケ(掛布雅之)、金本知憲と、4番にホンマモンのスラッガーが座った時代は強かった。
今季は、その指定席に佐藤輝明が座り、40本塁打、102打点の2冠に輝いた。40本は球団の生え抜き選手としては掛布雅之以来、40年ぶりの快挙や。
しかし、今季のテルのすごさは数字だけやない。ファンが望む、ここ一番での逆転打、決勝打が多かった。すっかり4番の風格が出てきたと思ったもんや。
ワシが今でも思い出すのは、8月5日、バンテリンドームでの中日戦や。
0対2とリードを許して迎えた8回無死一、二塁。テルが、この回から登板した橋本侑樹の146キロ直球を振り抜くと、打球は大きな弧を描き、右中間スタンド最深部に飛び込んだ。センターを守る岡林も打球を見上げるだけやった。
値千金の一発とは、このことや。それまでは2つの見逃し三振を含む3タコやったけど、4番はこういう場面で1本打てばいい。
今季のテルは殊勲打(先制、同点、勝ち越し、逆転となる安打)の数が39。これは森下と並び、両リーグ最多。いかにチャンスで打ったかちゅうこっちゃ。
入団したばかりのテルのバッティングは、とにかく荒っぽかった。当たれば飛ぶし、当たらんかったら、まるっきりスカ。そんな極端な姿を何度も見せられた。
しかし、年々ムダな部分を削ぎ落とし、打つべきボールを、きっちり捉えられるようになった。この間には肉体強化や練習方法の改善もあったと思う。精神的にも強くなったはずや。
テルを見てると、まだまだ伸びしろを感じる。次は50本塁打を目指してほしいな。タイガースの2連覇、3連覇にも貢献してほしい。メジャーに行くのは、それからでええやろ。
川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。