■『ばけばけ』に絶対必要な吉沢亮
大ヒット映画『国宝』で主演を務め、完全なトップスターになった吉沢。東京では“大磐石”と呼ばれて毅然としていたのに、松江では遊郭に入れずオロオロしっぱなし。教師を務めることを怖れるなど、ヘブンも同じ人間だと気づいたのはトキだったし、立場的に脇に追いやられていたが、それでもしっかり存在感を示したのは、さすがだ。
しかし、この遊郭に入れない情けなさこそが、錦織の役回りとして重要だ。遊郭がある天国町は、前近代的な世界。牛乳代をぼったくったり、井戸のお金を必死に拾ったりと人間臭くはあるが、遊郭で遊女・なみ(さとうほなみ/36)が格子越しにトキと話しているとき、遊郭の主人がそれを監視していたりと、古い世界だといえる。天国町ではあるが、近代的価値観から見れば「ジゴク」なのだ。
一方、錦織は怪談は好きじゃないと言っているように、近代という新しい世界の体現者でもある。だからこそ、天国町の遊郭には入れないのだろう。遊郭で楽しそうにふるまうヘブン、それを興味津々に見つめるトキとは対称になっていて、吉沢はその2人を立たせるために欠かせない、裏の主役といえる。
古い世界に暮らすトキ、近代側にいながら古い世界に惹かれるヘブン。そして、近代を志向する錦織と、ジゴクとテンゴクを描く物語の役者がそろった。第5週は平均世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)も15%台をキープし、16%台を狙える勢いで、これからが楽しみだ。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。