■虎の4番・テルよカケを追い越せ!
もちろん、往年のタイガースファンにはバース、岡田とのバックスリーン3連発の記憶が鮮明やろう。
巨人の江川との名勝負もあるしな。「ホームランか、三振か」という2人の勝負は敵も味方も、つい勝負を度外視して見入ってしまったもんや。こういうライバル同士の名勝負が今は、ほとんどない。それが、ちょっと寂しいな。超一流のバッターは超一流のピッチャーによって育てられるし、その逆もまた真なりや。
さて、ワシがカケの一発でよく覚えとるのは、タイガースが21年ぶりに優勝した1985年のシーズン。マジックナンバーが一桁になって迎えた、後楽園球場での巨人戦や。
5回まではタイガースが1対3の劣勢の展開。6回も先頭の真弓がヒットで出塁し、やっとチャンス到来かと思ったら、2番の北村照文が送りバントを失敗し、バースもレフトフライ。
しかし、ここでカケが巨人のカムストックの外角球を捉え、タイガースファンが待つレフトスタンドに叩き込んだ。これで同点や。
9回の攻撃はカケから。内角球を思い切り引っぱたくと、打球はライトスタンドに突き刺さった。前の打席がレフトへのホームランだったから、今度は内角を突いてくるとの読みが見事に的中したわけや。
ワシらがそうだったように、ファンも、この試合で優勝を確信したはずや。敵将の王さんも「掛布は4番らしい仕事をした」と新聞のコメントで褒めてた。
この年、カケは40本塁打を記録し、その40年後に佐藤輝明が40本塁打。同じ左打者で、しかもチームの顔でもある4番。
テルはまだカケの域には達していないけど、カケに追いつき、追い越す可能性を秘めてるのは誰もが認めるところや。数々の修羅場をくぐり、それを糧にしていけば、打席に立ったオーラでピッチャーを威圧するレベルのバッターになれる。ワシは、そう信じとる。
川藤幸三(かわとう・こうぞう)
1949年7月5日、福井県おおい町生まれ。1967年ドラフト9位で阪神タイガース入団(当初は投手登録)。ほどなく外野手に転向し、俊足と“勝負強さ”で頭角を現す。1976年に代打専門へ舵を切り、通算代打サヨナラ安打6本という日本記録を樹立。「代打の神様」「球界の春団治」の異名でファンに愛された。現役19年で1986年に引退後は、阪神OB会長・プロ野球解説者として年間100試合超を現場取材。豪快キャラながら若手への面倒見も良く、球界随一の“人たらし”として今も人望厚い。