■『ばけばけ』が描く明治女性の強さ
暗い展開が多いが、気分が落ちずに見ていられるのは、トキ(高石)の周辺にいる女性陣の頑張りが大きいのだろう。ヘブン家への松野家の突入はフミ(池脇)が先導していた。トキの女中仕事をうまくごまかしていたのは花田旅館の女将・ツル(池谷のぶえ/54)だったし、ヘブン家でトキをうまくサポートして不安をやわらげてくれたのは旅館の女中・ウメ(野内まる/23)だった。
また、トキと同じく没落士族の娘だが、教師という夢をかなえた親友・野津サワ(円井わん/27)。遊郭を抜け出ることを望んでいた遊女・なみ(さとうほなみ/35)は、洋妾になれなかったが、みんな時代の変化に対応しようとしている強さがある。
かたや男性陣は、勘右衛門(小日向)は武士にこだわったままだし、司之介(岡部)は商売に失敗して多額の借金を家族に抱えさせているし、三之丞(板垣)は雨清水家のプライドが捨てられない。時代に翻弄され、バタバタしているばかりだ。また、ヘブンの意を汲みきれず、女中騒動の原因となってしまった錦織(吉沢)も、異文化を理解できずに翻弄されてばかりだ。
高石あかりの演技ばかりに目がいってしまいがちだが、本作にどこか明るさがあるのは、以上のように、女性陣の存在があるからだろう。明治初期の混乱期を描く場合、時代に翻弄される男性たちが目立ってしまうが、その裏で、女性たちは時代に合わせて生き抜こうとしていた。そんな姿を描こうという意図を本作に感じる。
主人公はもちろん数奇な人生を歩んだトキだが、同時期に生きた女性たちも、この物語の主役で、本作は彼女たちが支えていると言える。公式サイトの第8週のあらすじによると、トキは生け花やお茶を習い直そうと、タエ(北川)を訪ねて稽古の再開を願うそうだ。この流れで、タエが生活を立て直すことになるのなら、さらに物語を支える女性が増え、本作は盤石になりそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。