■「なにもない」のに支持される『ばけばけ』

 X上では《ヘブンさんがおトキちゃんの、おトキちゃんがヘブンさんの大切なものを守ってくれた。言葉は分からないけど伝わってる感じがいいなあ》《大きな事件も起きずにゆっくりゆっくり日常が進む中で2人の関係に信頼が生まれていくのいいね》など、トキとヘブンの気遣いに多くの称賛の声が寄せられていた。

 今週は、ほかにも相手を気遣う姿が描かれた。タエ(北川景子/39)に古さの象徴である、お茶の稽古を頼みに行くのもトキの優しさ。トキがアイロンで焦がしたことをとがめないのも、ヘブンの優しさ。ドキドキするような展開はなかったが、心がポッと温かくなるような、ずっと見ていたくなる週だった。これで最高視聴率を記録したというのが興味深い。

 本作の脚本を手掛けるふじきみつ彦氏は、X上で《高石さんが「ばけばけは途中から何もなくなる」と以前言っていた、その何もなくなるの一端が見られる第8週だと思います。私としてはある意味、王道の回です》とポストしている。“ドラマらしい大きなハプニングは起きないけれど、何かが少しずつ進んでいく”のは、ふじき氏ならではの作劇だ。

 では、それが退屈かと思えば、これがすごく楽しい。先週までの視聴者の情緒を揺さぶりまくった鬱展開から、今後の恋愛展開への橋渡しとなるであろう、何も起こらない日常が描かれた第8週。ここで16%台の視聴率を叩き出したというのも、その不思議な魅力が視聴者に伝わっているからだろう。

 本作は、ある意味でアンチドラマであり、ドラマの王道をいく作りが多い朝ドラでは画期的だと言える。画面の暗さやオープニングのハンバートハンバートの主題歌と川島小鳥氏の写真を含め、一見すると地味ではあるが、前例にない大ヒットになる可能性は高い。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。