相撲界の内情や制度、騒動の行方を、元関脇・貴闘力が現場目線で読み解く。経験者だから語れる、大相撲のリアルが詰まったコラム。

 11月23日に千秋楽を迎えた、1年納めの九州場所は、混戦が続き、見応えがある場所だった。今年は2人の横綱が誕生。横綱が独走となるのかと思ったのだが、そうでもなかったね。

 大の里が途中で連敗したり、豊昇龍も6日まで2敗するなど、九州場所の混戦は、今年を象徴する展開だったような気がする。

 不甲斐なかったのは関脇に復帰した、オレの三男・王鵬だ。後半戦は、大関琴櫻、大の里、豊昇龍に当てられて、12日目に負け越し。

 王鵬が所属する大嶽部屋は、秋場所後に師匠が交代した。新師匠の元前頭・玉飛鳥は人間的にいいヤツだが、もともと性格が優しい。

 前師匠の元大竜さんは最高位が十両なだけに、相撲に関してあまり口を挟んでこないタイプだった。

 つまり、王鵬に対して、怒る人がいないんだよ!

 前師匠の大竜さんは、「オレは王鵬を怒ったことがない」と言っていたが、それじゃあ王鵬が伸び悩むはずだ。新師匠は、もっとガンガン怒ってやらないと!

 オレの師匠、二子山親方は、稽古場でものすごく厳しい人だった。35歳になっても、「何やってんだ! もっとぶつかれ!」と、ヘロヘロになるまで稽古させられた。普通、35歳で、ぶつかり稽古なんかしないよ(笑)。ヘンな相撲を取ったときにはゲンコツも飛んできた。厳しい師匠がいたから、オレはケガもなく35歳まで現役を続けられたんだと思う。感謝しかない。

 師匠の友達の武蔵川親方(元横綱・三重ノ海)も弟子に対しては厳しく、かつ稽古時間が長かった。その中から出てきたのが、横綱・武蔵丸、大関・武双山、出島、雅山といったメンバーだ。若貴、貴ノ浪らを擁するウチの部屋とは、よく「ライバル部屋」と言われたものだ。