日本競馬界のレジェンド・武豊が名勝負の舞台裏を明かすコラム。12月7日の阪神5Rの新馬戦ではクールマイユールに騎乗予定の、彼のここでしか読めない勝負師の哲学に迫ろう。

(2025年12月1日寄稿)

 京都競馬場100周年記念事業の一環として行われた、藤井聡太竜王と佐々木勇気八段による第38期竜王戦7番勝負第4局2日目、対局再開の立ち会いという場面に臨席させていただきました。

 竜王戦は、競馬にたとえるならGⅠレースに当たる将棋の8代タイトル――竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将、棋聖戦の一つで、対局が行われた京都競馬場の特別室『菊の間』は、対局前から緊張感が張り詰め、僕が知っている京都競馬場とは、まるで違う空気に包まれていました。

 前夜祭でご一緒した俳優の佐々木蔵之介さんが、「一人だけ、きれいな空気をまとっていらっしゃる」とおっしゃっていましたが、静かな佇まいの藤井聡太竜王は、まさにそんな感じで。思わず自分が23歳だった頃のことを思い出し、その違いに苦笑いを浮かべるしかありませんでした(笑)。

 咳払いひとつするのもためらわれるような緊張感の中で行われた対局は、藤井聡太竜王が、138手で勝利。5連覇を達成し、史上3人目となる『永世竜王』の称号を、その手で掴み取りました。

 今回は、亡くなったメイショウの松本好雄オーナーの代役ということで勝負の場に立ち合い、終始、慣れない空気に緊張しっ放しでしたが、静かな中にも闘志を秘めたお二人の対局を間近で見させていただいたことは、本当に貴重な体験になりました。

 それでは今週の騎乗馬です。2025年・師走、関西では、京都から阪神開催に替わり、関東では、東京から今年最後の中山開催に突入。12月21日までは中京も加わっての3場開催。暮れの祭典・有馬記念に向かって、馬も人も、ラストスパートです。