■“足組み”は欧米圏ではむしろ“友好的な態度”、日本以外で失礼とされる国は?
「海外のビジネスシーンにおいて、会議や商談で脚を組むことは失礼ではありません。また、アメリカのニュースやトーク番組でもアナウンサーやホストが脚を組んでゲストと話す姿がよく見受けられます」(石黒講師、以下同)
海外において脚組みがバッドマナーではないという説は本当だったようだ。それでは、諸外国で“足組み”は何を意味するのか。その文化的背景についても聞いてみると……。
「いわゆる欧米圏において“脚を組む”という行為は、リラックスしている、友好的な態度だと言われています。なぜかと言うと、脚を組んでいるとすぐにパッと立ち上がることはできませんよね。すぐに立てないということは、急に襲ったり攻撃したりする意図はない、心を開いて話しやすい雰囲気を作ろうとしている、とみなされるんです」
その一方で、日本では“失礼”を想起させるのはなぜか。日本と海外で認識の違いがある理由についても考察してもらった。
「例えば、茶道をイメージしてみましょう。畳に座るときは、正座をして背筋を伸ばすのが良い姿勢ですよね。手は太ももの辺りに置くので、自然と背筋が伸びやすいと思います。私見ですが、椅子の文化になっても、同じように脚を揃えて背筋を伸ばすというのが、日本人らしい礼儀や規律を示す作法になったのではないでしょうか」
日本の“ご近所”でも、脚を組むことはNGとされる場合が多いようだ。
「韓国では、儒教文化で目上の方を敬う心が強いためか、家族であっても目上の方の前で脚を組むのは失礼とされています。中国はビジネスシーンで脚を組むことは比較的許容されていますが、上司や年長者の前で脚を組むのは控えます。ヒンドゥー教や仏教圏も、足の裏は不浄とされているため、足の裏が見えてしまう脚組みはNGです」
最後に、石黒氏は自分たちの文化や価値観を押し付けることが“マナー違反”であるとも教えてくれた。
「海外の方と会議や商談をする際、相手が脚を組むのを見て注意するのは、日本式の押し付けとなり、失礼ではないでしょうか。そうした場に参加する時は、相手の文化や習慣を事前に学び、合わせたり尊重したりするのが大事だと思います。また、自分側が国際会議や商談を主催するときは、参加者らの文化や背景などを知っておくなど、お互いが柔軟に歩み寄れる気持ちがあると良いですね」
自分たちの常識や感覚に囚われず、幅広い視野を持つことが大切なのだろう。
石黒真実(いしぐろ・まみ)
NPO法人日本サービスマナー協会認定マナー講師。ビジネスマナー研修や階層別研修など、年間平均100研修に登壇。2025年12月までに延べ7400人以上を指導した。講師活動と並行して日英バイリンガルでの司会業に従事し、国際会議やスポーツイベントにも携わる。その他、G7伊勢志摩サミット関連会合や駐日大使の名古屋訪問時等、VIP接遇の経験も有する。