■必ずしも流行語が大賞を受賞しない理由
注目を集める理由のひとつは、発表時期の巧妙さにあります。ノミネート発表は11月初旬。『現代用語の基礎知識』が発売されるタイミングと重なり、自然と話題が集中する仕組みです。年間大賞の発表は12月1日。年末の“1年を振り返る”空気と合わさり、さらに報道が加速する展開となります。あえて年末ギリギリまでの流行語を切り捨てても、この時期に固めた日程はPR効果の最大化に寄与していると言えます。
また、受賞者が必ず授賞式に登壇する点も大賞に選ばれる重要ポイント。
「本人が登場するとニュースとしての強度が高まり、メディアも扱いやすくなる構図があります。今回も日本初の女性首相がステージに立ったことで、大賞の重みがより鮮明になった印象です。逆にネット発の言葉の場合、代表者が不在で式に呼びにくいケースもあり、主催側としては“登壇可能な人がいる言葉”を優先したくなる事情もあります」(前出・出版関係者)
高市首相の「働いて働いて…」というフレーズは、強い意志として評価される一方で、「働き方改革に逆行しないか」といった懸念もありました。総裁選後の連立協議や、就任直後のトランプ米大統領来日など、激しい外交日程が続いたこともあり、首相自身が睡眠時間2〜4時間と語ったことも話題に。周囲から「無理をしないでほしい」と心配の声も上がる状況で、日本初の女性首相にかかる重圧が浮かぶ場面でした。
今回の年間大賞は、09年の「政権交代」以来、16年ぶりの“首相関連ワードの受賞”となります。政治の言葉が大賞になると賛否が高まりやすいものの、その年の空気や社会の変化を色濃く映し出すケースとも言えます。流行語大賞は流行そのものよりも、世の中の動きや気分を記録する“時代のスナップショット”のような存在ではないでしょうか。今年の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」は、日本が転換期に立つ今の雰囲気を象徴するひと言だったと思われます。
トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。