日本競馬界のレジェンド・武豊が名勝負の舞台裏を明かすコラム。12月20日はコールラヴに、21日はウイントワイライトに騎乗予定の、彼のここでしか読めない勝負師の哲学に迫ろう。

(以下の内容は2025年12月15日に寄稿されたものです)

 ケガのため騎乗することができなくなった浜中俊騎手のピンチヒッターとして、2025年のダート王者を決めるチャンピオンズCに参戦しました。

 パートナーのメイショウハリオは、ここまで31戦10勝、交流GⅠの帝王賞を2度、かしわ記念、川崎記念と4つの勲章を持つ実力馬で、8歳馬の彼にとっては、これが最後のレース。

 長い騎手人生、ケガのために騎乗を断念せざるをえなくなったことが僕にも何度か、あります。

 しかも、2021年11月7日のGⅢみやこSから、21戦連続で騎乗。年内での引退が決まり、これがラストランですから、その悔しい胸の内は同じ騎手として、よく分かります。

 浜中君から、事前に馬のことを聞き、ファーストコンタクトの追い切りで馬の感触を確かめ、そこからもう一度、浜中君と作戦会議。

 当日は、僕にとって特別な思いのある、亡くなった松本好雄さんが愛したメイショウの勝負服に身を包み、そのときが来るのを静かに、待つことができました。

 レースは、2枠3番からスタート。道中は内で折り合いに専念し、手応えは十分です。

 ここまでは、ほぼ思い描いた通りの競馬でした。

 このレースで、唯一、悔やまれるのは、「勝ち負けの勝負になる」と思った次の瞬間、勝負の4コーナーで前が壁になり、外へ振られてしまったことです。

 直線、GOサインを出した後は、メンバー最速の上がりタイムで前を走る馬を猛追しただけに、「あそこだったな……」と思わずにはいられません。

 レース後、岡田稲男先生の口から、「東京大賞典に行っても面白いかも」という言葉が飛び出しましたが、僕も同じ気持ちです。

 年内引退は確定路線ですが、最後に、もう1レースできるかどうかは馬の状態次第。いい知らせを待ちたいと思います。