青山学院大学の原晋監督が勝負区間と見るのは、およそ800メートルの高低差を駆け上がる山上り区間の5区だ。

「山上りでブレーキがかかると、一気に差が開きます。区間賞から区間最下位だと20~30分も差が開くことも。1~5位、あるいは区間賞~10位でも3分以上の差になる。今回、うちには山の経験者がいないので、そこは不安材料です」

 前回大会は区間14位、前々回大会は区間17位に沈み、例年、5区での苦戦が続く国学院大学の前田康弘監督も、こう漏らす。

「選手の中には“山だけは(嫌だ)”と言っている選手もいますが、この時点でダメなんです。メンタルが崩壊しています。自分は苦しいのに耐えてでも、というランナーでないと」

 優勝候補を率いる名将たちをも悩ませる箱根の代名詞区間。そこで勝負をかけるのは15年ぶりの総合優勝を目指す早稲田大学だ。チームの命運を握るのは前々回を区間6位、前回は区間2位の快走を見せた、眼鏡がトレードマークの“山の名探偵”こと工藤慎作選手(3年)だ。1984年のロス五輪に出場した増田明美氏が工藤選手の走りを解説する。

「今年の全日本大学駅伝では8区を56分54秒と、早稲田の先輩・渡辺康幸さんの日本人区間最高記録を更新しました。今や、学生界随一のランナーです」

 工藤選手の成長を誰よりも実感しているのが、早稲田大学の花田勝彦監督だ。

早稲田大学の花田勝彦監督 ※撮影/編集部

「30秒~1分差なら、工藤がひっくり返してくれると思います。でも、総合優勝を考えると2~4区の間で先頭に立つのが理想です。5区の工藤に貯金を作ってタスキを渡したい」

 工藤選手が山登り区間を攻略するための“真実”を口にする。

「2028年のロス五輪に出場するため、3月には東京マラソンを走ります。フルマラソンを走るためには、有酸素能力が必要不可欠で、この力は山を走るのにも絶対必要になる。自分は平地の走力やマラソン力を高められる山の区間に、前向きに取り組めています」

“走るコースはいつも1つ”な工藤慎作選手 ※撮影/編集部