2025年は、刑務所に関する法律(正式には「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)が大きく改正された年だった。
「被収容者の改善更生・社会復帰を重視する方向で、『個々の特性に応じた処遇』、『被害者や社会情勢に配慮した処遇』などが法令上明確化されました。
標語的にまとめれば、“矯正”から“共生”へというとこですね」(全国紙社会部記者)
処遇は「懲役の取説」と考えると分かりやすい。
「改正は当然だと思う」と切り出すのは、T氏(36)。まだ闇バイトという言葉が社会問題化する前から、ツイッター(現X)を使って人員を集めるなど、闇社会のリクルーターとして暗躍していた。
20代の大半は詐欺に手を染めていたというT氏の累計懲役年数は10年を越える。コロナ禍の懲役や処遇変更の荒波の経験者でもある。
「刑務所の生活はひと言でいうと、令和の価値観にあってない。いわば多様性の対極みたいな世界ですから。布団の畳み方、風呂に入る時間、睡眠時間、書ける手紙の枚数まで決まっている。無断でトイレに行くことも許されず、用便を願い出なければいけない。いろいろおかしいんですよ」
協調性や社会性を獲得する意味で、一般社会より厳格な規律を要するのは当然に思えるが、再犯率50%という現実は、厳しい処遇に対して疑問も湧く。
では、具体的に、どんな変更があったのか。
「俺の中で一番大きい変化はやっぱり刑務官への『オヤジ』呼びの禁止です。原則名前で呼ぶわけですけど、一方で個人情報の扱いっていうんですか? 反社の凶悪犯もいるわけで、保安上の理由から名前を知られたくない刑務官もいます。人にもよるんですよ」(前同)
その場合は、なんと呼ぶのか。
「俺がいたときは特に決まっていなかったですね。瞬間的に言い方を探ったけど思いつかなくて、結局、小声で“オヤジ”とか言っちゃって。嫁の親じゃないんだからっていう(苦笑)」(同)
ただ、呼び方は変わろうとも、受刑者にとって刑務官との関係性に変化はない。
「“オヤジ”と呼ぼうが、“担当”と呼ぼうが、刑務官は我々を管理する人間ですからね。むしろ、大きく変わらなければならないのは、刑務官のほうだと思いますよ」(同)
どういうことか。
「刑務官は、受刑者を『番号呼び』から『名前呼び』に変えることになったんです。しかも“さん”という敬称までつけることになり……さすがに距離感がバグるでしょ」(同)
戸惑いは受刑者以上に強いのでは、と推察する。
「改正法に明記された『受刑者を個として扱う』というのは、これまでと真逆のスタンス。“オヤジ”も大変な仕事ですよね(笑)」(同)
かつての時代にそぐわない法律が令和まで原型を保って生き続けているのも不思議だが、なぜ、最近になって改正されたのか。
「こうした処遇変更のきっかけは、21年に河井克行元法務大臣が収監されたのも無関係ではないと思います」(前出の社会部記者)
その著書『獄中日記 塀に落ちた法務大臣の1160日』(飛鳥新社)には、確かに、面会に訪れた妻・案里氏のひと言で、処遇の改善がなされたとも読める旨が記されている。
「処遇があまりに前時代的すぎて、人権侵害という疑義がわずかに認められたようです。冬の零下だろうが、居室に暖房はなく、日の差さないコンクリートに閉じ込め置かれるという、ほとんど拷問的な状況。それが、案里氏のひと言で、夕刻1時間にも満たない時間だけ、暖房がつくようになったそうです」(前同)
元法務大臣が、〈コロナ感染し、外気温零下五度のなか暖房なしで隔離された〉という懲役体験を書くのは、なかなか迫力がある。
「河井氏が収監された喜連川社会復帰促進センターは、その名から分かるように、名称には“刑務所”とついていません。民間企業が一部運営に参加する、主に初犯者を対象にした刑務所なんです。同センターをしてこの処遇では、他の刑務所は推して知るべしでしょう」(同)