ハラスメントにもさまざまあるが、昨今注目されているのは“フキハラ”こと「不機嫌ハラスメント」です。
まず「フキハラ」とは、道徳や倫理に反する言葉や態度で精神的なダメージを周囲に与えるモラルハラスメントの一種。舌打ちやため息のような行動を通じて周囲に自分が不機嫌であることを示し、他人に威圧感や不快感、精神的な苦痛を与える行為を指します。
3月10日、朝日新聞はこの「フキハラ」により、警視正の男性(60)が警視庁から警務部長注意処分を受けていたことを報じた。訓戒に次ぐ処分だという。記事によれば、この男性は良好な職場環境を整える立場にあったにもかかわらず、職場で不機嫌な態度をとり、部下の勤務環境を悪化させたといいます。
「不機嫌という言葉だけでは現場の状況がつかめませんが、警視庁および警察庁には、そもそもこの男性によるパワハラがあるという訴えが複数寄せられていたそうです。この男性は部下が100人以上もいた管理職だったと報じられていますが、一方的な話し方で人の意見を聞かない、部下の話を遮るなど、勤務中の態度に問題があったようです」(全国紙社会部記者)
この問題が報じられ身につまされる思いをしたというのは、現在、大手IT企業で部長職を務める谷口浩平さん(48・仮名)である。新規プロジェクトの立ち上げを担当し、毎月の残業時間が100時間前後で推移しているという谷口さんが抱える問題を検証します。
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社内で実績を積み上げてきたという谷口さん。順調に出世を重ね4年前には新規プロジェクトの立ち上げを任されるようになりました。当初は少ない人員と予算で新規プロジェクトを任された谷口さん。何とか会社から課された年間の売上高も達成し、部下の数もプロジェクト立ち上げ当初は男性社員1人だったのが、この1年で新入社員の配属もありその数は5人にまで増えたといいます。しかし、これは同時に会社からさらなる売り上げ目標を課せられることを意味します。このときのことを振り返り谷口さんは「こんなはずではなかった」と頭を抱えます。
「事業の開始当初は月に2000万円の売上を出すことが上司から課せられた目標でした。年間の目標売上高はおよそ2億円です。プロジェクトがスタートした直後は信頼できる男性部下と2人でがむしゃらに働き、予算を達成したのですがこれがそもそもの間違いだったのです」
新規プロジェクトの立ち上げという難題を抱えながらも、ビジネス上の目標となる予算を達成し社内でも出世候補と目された谷口さん。自身はプロジェクトのリーダーとしてハイテンションで仕事を続ける一方で、気が付かないうちに部下には無理を強いていたのです。谷口さんが当時のことを振り返ります。
「プロジェクト発足当時の私の月の残業時間は120時間ほどで、土日も祝日もありませんでした。部下も私の勤務体系に引っ張られる形で残業は80時間超。長年苦楽を共にしてきた仲であり、忍耐強い性格だっただけに不満を口にすることはありませんでしたが、徐々に長時間労働によるストレスが溜まっていたようです」
事実、谷口さんもプロジェクト発足後から白髪が目立つようになり、職場ではため息をつく回数が増えたといいます。長時間労働による疲労がたまる中で、キーボードを強く叩きながら気が付けば貧乏ゆすりが止まらなくなっていたそうです。
目標売上が達成できていない部下を前に“他社の成功事例”を並べ、“同じように自社のプロジェクトも成功に導くよう”一方的に強い口調で伝えることも増えたそうです。部下の意見を一切聞こうとせず、自身が成功と考えるやり方だけを繰り返し伝えることが、プロジェクトの売上を伸ばすことにつながると信じてやまなかった谷口さんですが、その期待とは裏腹に部下の男性は徐々にやる気を失っていったといいます。2人の関係に何が起きたのでしょうか。谷口さんが語ります。
「ウチの会社は業界内でも4~5番手。それでもプロジェクトの業績を伸ばそうと、業界トップのリーディングカンパニーのやり方を見習って事業を進めるように部下には言ってきました。なぜなら、それこそが成功への近道だと信じていたからです」
しかし、実際は業界トップ企業と谷口さんの在籍する会社では社員数にも4~5倍の差があり、売上高も10倍以上開きがあります。当然、事業規模も予算も雲泥の差。同じやり方で業務を進めようとしたところで成功するわけがないのです。
それでも目標を達成しようと部下とがむしゃらに働き、プロジェクトの目標売上高を達成し、事業を成功へと導いた谷口さん。しかし、ここでさらなる難題に直面します。
「立ち上げから事業を進めてきた男性部下が先月、業界最大手の同業他社へと転職したんです。その一方で、会社から課された売上目標は達成しているため、プロジェクトは順調に進んでいると社内では評価されています」
かつてのように超長時間残業をプロジェクトメンバー全員でこなし、業務を乗り切ろうとすれば、谷口さんの下へ配属されたばかりの新入社員の口から人事部へと不満が伝えられるのは必須。そうなれば最悪、長時間労働を部下に課したとして谷口さんがパワーハラスメント行為で社内処分を科される可能性もあります。一方で、部下を前に、今までのように貧乏ゆすりをしながらため息を頻繁につき、キーボードを強く叩きながら自身が考える効率的な仕事の進め方を部下に一方的に押し付けたりすれば、今度は“フキハラ”で処分をされかねない。今後、谷口さんはどのように振る舞うべきなのでしょうかーー。