3月8日から開催中の大相撲春場所。一番の見どころは、大関・安青錦の「綱取り」だろう。ウクライナ出身、入門から2年半の安青錦は、どのような指導を受けて強くなったのか?

 超スピード出世の裏側を、師匠・安治川親方(元関脇安美錦)に聞いた。(取材・文/武田葉月)

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――昨年九州場所では、愛弟子・安青錦関が関脇で12勝3敗で初優勝。(大関昇進の基準とされる)3場所で33勝以上を上回る34勝をマークして、昇進が決まりました。大関昇進伝達式のときの口上は、師匠と大関とで話し合って考えたそうですね。

安治川:私自身、大関の経験がない(最高位関脇)ですし、勉強のために、「(口上は)自分で考えてみろ!」と、最初は突き放したんですよ(笑)。でも、伝達式まで時間もないし(千秋楽の3日後)、本人も不安だったんでしょう。最終的には私のところに相談に来ました。

 最近の口上は、「四文字熟語」を使うことも多いんですが、やはり本人自身が理解できる言葉じゃないといけないし、安青錦らしい言葉を使おうということで、「大関の名に恥じぬよう、また、さらに上を目指して精進いたします」という文言にしたんです。

――シンプルで分かりやすい口上だと感じました。

安治川:とにかく「上を目指す」ということは、本人が常々言っている言葉なので、あとは今までやってきたとおり、稽古に精進する、ということですね。5分くらいでパッと浮かびました(笑)。

――大関に昇進が決まった後、そして春場所前も大関に取材が殺到。テレビのバラエティ番組などにも、積極的に出演して、師弟ともに多忙な毎日でしたね。

安治川:まず「安青錦」という力士が、どんな人物なのか知ってほしいという思いから、出演依頼や取材などは、なるべくお断りしないようにしています。ただ、場所前、場所中は、本人を相撲に集中させるのが私の仕事でもあるので、調整してはいるのですが、正直、しんどいときもあるでしょうね。

 でも、そうした経験は、勝負強くもなると思いますし、日本語がより、うまくなるいい機会だと私は捉えています。

――2月に開催された「NHK福祉大相撲」での生インタビューなどでも流暢な日本語で応えていましたし、敬語などをきちんと使えるところにも驚きました。

安治川:外国出身者に関しては、日本語を覚えることが強くなることにつながると本人も思っているし、私も同じ意見です。敬語は、お父さん、お母さんではなく、「父」「母」と言うとか、基本のところは使いこなせるステージに行っていると思いますよ。

 安青錦のいい点を挙げるとすると、分からない言葉や相撲の技、事柄を流さないで、恥ずかしがらずに尋ねる。それで、新しく覚えた言葉は、その日のうちに何度か使ってみるところ。すべてにおいて、“強くなるため”という意識がある。普通の力士でも、そういうことをできる子って、あまりいないものです。

 そして、何よりも人の話を素直に聞くという点でしょうね。強くなるには、一番大切なことだと思います。