■語りたくなる『冬のなんかさ、春のなんかね』

 文菜(杉咲)のゆきお(成田)への想いの変化、ゆきおの文菜へのアプローチ、山田(内堀)との別れと、言葉にすると、これまでに比べるとトピックは多かった。だが、後半は10分以上カメラが固定状態で撮影され、杉咲と内堀の演技を超えた会話劇を展開するなど、ほぼ演出なしの生の状態で見せる状態。視聴者が想像する余地がすごいのだ。

 モノローグが差し込まれることはあるものの、その場の思いは説明せず、あえてスキマだらけにした作りの本作。だからこそ、視聴者は語りたくなるのだろう。その語りは、人に自分の意見を聞いてほしいというより、自分の中で整理するために言語化している感じだ。それだけ、見ている人の心に本作が届いているということなのだろう。

 そもそも本作のうたい文句は、「考えすぎてしまう人のためのラブストーリー」。今泉氏も公式サイトで「“私は文菜のことがすごくわかる”とか“自分だけかもと思っていた悩みや苦しさを描いてくれている”と思ってくれる人が必ずいると信じて脚本を書いています」とコメントしており、最初から多数は狙わず、限られた人に届けることを狙っていたようだ。

 視聴率や配信の数字は低調だが、SNSで語る視聴者の熱を考えると、それは成功したと言えるだろう。数字を稼げるとは思えない実験作のような本作は、視聴者がこれだけ語っている状況を生み出しただけで十分なのだ。次回は、ゆきお(成田)と美容院の従業員・紗枝(久保史緒里/24)に、なにかが起こるようだが、わかりやすい展開とはならないだろう。それこそが『冬のなんかさ、春のなんかね』なのだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。