■働き方専門家・常見陽平氏が指摘する問題点
千葉商科大学基盤教育機構准教授で、『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)など働き方に関する著書も多い常見陽平氏は、石川さんの離席回数や離席時間を細かに確認する部内での上司の姿勢を「マイクロマネジメント」として問題視する。
「マイクロマネジメントとは、とにかく細かく従業員を管理し自由度を削ぎ、メンタルに影響を及ぼすことを言います。特に近年、その考え方が取り入れられつつある反面、マイクロマネジメントのやり過ぎが、従業員の心理的負担を増やすという問題も指摘されるようになっています」(常見氏)
特に顕著になったのは、コロナ禍で一気に普及したリモートワークだという。
「職場で顔を付き合わせない従業員の働きぶりを把握するという目的のもと、本当にきちんと働いているかどうかを監視するため、ずっとリモート接続しているパソコンのカメラをオンの状態にする会社もありました。社内システムへのアクセス状況など、デジタルによる監視ツールも発達していますよね。常に従業員の稼働状態を監視し、細かいマネジメントをすることが可能になっています。
ただ、会社側が社員を監視しすぎると働く側の“裁量”は守られるのかという観点が置き去りになります。マイクロマネジメントのようにガチガチに管理するマネジメントがある一方で、日常の管理をそこまで細かくせず、“成果さえ出せばいい”という考え方もあります」(前同)
今回、石川さんが上司から注意を受けたという勤務時間中のタバコ休憩の回数が多いという“問題”についても、常見氏は「そうなっている背景に目を向ける必要もある」と言う。
「タバコ休憩に限りませんが、社員の離席や休憩が多くなっているのはなぜなのか。体調に問題があるのか、仕事の負担が大きいのか。もしくは精神的に何か不調なのか。“細かく”というよりも“丁寧”なマネジメントが求められます。
タバコ休憩に関しては、もし不公平と感じる非喫煙者がいるとしたら、非喫煙者向けの休憩室をもうけるなどといった折衷案も有り得るでしょう。
いずれにせよ、社員を厳しくマネジメントしすぎると社内の雰囲気はギスギスする。マネジメント側は、組織で働く従業員の言い分を良く聞いたうえで、どちらか一方に負担を強いるのではなく、誰もが納得する着地点を見出す努力が必要です」
一方で注意を受けた側である石川さんも勤務態度を見直す必要はあるだろう。タバコを吸う社員は社内で石川さんだけではないにしろ、周囲から「石川さんはタバコ休憩を頻繁に取ってズルい」と名指しで非難の声が上がるのには、喫煙のための離席回数や離席時間の多さ以外の理由があるのかもしれない。
また、上司から喫煙のための離席回数と離席時間の多さを理由に異動案を提示されたという石川さんだが、部署異動をすれば石川さんの社内でのタバコ休憩時間がすべてなくなるというわけではないだろう。
一方、異動案が提示されたことで石川さんが勤務態度を見直してタバコ休憩のために離席する回数は減るかもしれないが、一気にその時間がゼロにもならないだろう。営業部員として一定の成績を収め、会社に貢献する姿勢も石川さんは見せている。
それだけに、上司に自らの仕事ぶりを説明した上で、喫煙癖が理由での異動案を自身が受け入れたところで、石川さんの社内での喫煙時間がゼロになるわけではない事実、それと部署異動により自身の会社への貢献度が減る可能性があることを冷静に説明する必要も求められる。
リゾートホテルなどの運営を行なう「星野リゾート」のように従業員の採用段階から“喫煙者お断り”を掲げている企業ならまだしも、非喫煙者しか採用しないとHP上に掲載してもいない企業で“喫煙癖”だけを理由に社員に部署異動を命じるのは難しい。
働き方が多様化した時代だからこそ、自身の価値観だけを絶対と考えるのではなく、様々な人の立場に寄り添った職場環境や労働環境の構築が、働く側も働かせる側にも求められる時代だ。
1974年生まれ.北海道札幌市出身.一橋大学商学部卒.同大学大学院社会学研究科修士課程修了.リクルート,バンダイ,ベンチャー企業,フリーランス活動を経て、現在、千葉商科大学基盤教育機構准教授,評論家
主著─『日本の就活』(岩波新書)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版)『50代上等!──理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(平凡社新書)など