一滴たりとも石油は渡さない——。遠く離れた中東の地で起きた戦争が、我々の日常生活を揺さぶり始めている。
「3月2日、イランの軍事組織『イスラム革命防衛隊』は、国営テレビを通じてホルムズ海峡を封鎖すると宣言しました。ホルムズ海峡は、産油国に囲まれたペルシャ湾とインド洋を繋ぐ石油輸出の玄関口で、世界消費の2割に相当する原油がここを通過します。イスラム革命防衛隊は、同海峡を通過するにはイランの許可が必要だと警告。実際に周辺海域では、石油タンカーへのミサイル・ドローン攻撃が報告されています」(全国紙国際部記者)
2月28日に始まったアメリカ・イスラエルの共同軍事作戦によって前最高指導者のアリ・ハメネイ師を失ったイラン。その怒りは凄まじく、世界中の海運会社がホルムズ海峡の航行を一時停止する事態となっている。その余波を喰らったのは、スーパーの商品棚でも頻繁に目にするあるお菓子だ。
「3月12日、『わさビーフ』を製造する山芳製菓が、自社工場の操業を一時停止すると発表しました。ホルムズ海峡の封鎖によって、ポテトチップスを生産する工程で必要な重油の調達が困難になり、『わさビーフ』ほか『しおビーフ』『明太マヨビーフ』など主力6製品の製造を停止。現在オンラインショップも休業し、再開の目処は立っていないとのことです」(全国紙経済部記者)
ポテトチップスの生産停止長期化を恐れたのか、大手フリマサイト『メルカリ』では1袋(50グラム)160円(標準小売価格)の『わさビーフ』が“品薄”や“生産停止”の謳い文句とともに3袋で1555円や10袋で3888円で取引されている。
“ポテチショック”を招いた重油価格の高騰。この燃料を使用するのは、ポテトチップスの製造だけに限らない。重油は銭湯のお湯を温めるボイラーの燃料としても使用されているのだ。ホルムズ海峡封鎖の影響について、「愛知県公衆浴場業生活衛生同業組合」広報担当者は次のように話す。
「銭湯では、お湯を温めるのに1日200〜300リットルの重油を使います。ここ1年の重油価格は、1リットル当たり100円台(税抜)で推移していました。それが今回の封鎖で130円台にまで上がっています」
過去にもオイルショックやリーマンショックで重油の価格が高騰したことはあったというが、
「これまでは、120円台が最高でした。組合に所属する銭湯は、営業時間を短縮したり、定休日を増やす措置を取る予定です。非常事態と捉えています」(前同)
海峡封鎖の影響は、主要産業にも打撃を与えている。
「日産自動車九州は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によって中東向けの輸送が滞っており、3月中に生産する車の台数を約1200台減らすことを決めました。販売不振が続く日産にとって、中東は数少ない有望な市場です。特にSUVの『パトロール』は現地で人気があり、収益性も高い車種。パトロールの生産は続けて、他の車種の生産を減らす見込みです」(前出の全国紙経済部記者)