■視聴者を離さないNetflixの戦略

 ディズニー作品の配信を独占する「Disney+」や、39万本以上の配信動画作品を持つ「U-NEXT」など、NetflixのライバルはAmazon以外にも多数存在する。今大会のNetflixによるWBC独占配信はテレビ業界を中心に物議を醸したが、Netflixが勝負を挑んだのはテレビではなく、同業他社に対してだったのではないか。前出の芸能プロ幹部が話す。

「日本戦以外も視聴が可能で、全試合にハイライトが用意されるなど、テレビで見るより便利だったという声も視聴者からは上がっていますよね。

 また、日本のNetflix料金は、他国に比べると圧倒的に安いんです。広告なしのスタンダードプランは1590円。一方でアメリカだと19.99ドル(約3200円)と倍の価格です。日本ではまだ馴染みが薄い有料配信や有料放送文化ですが、他国と比較すると日本におけるNetflixの価格は決して高くない。今回、WBCを配信し、その便利さを利用者に伝えたたことで、Netflixは日本国内で他社を一歩リードする成功を納めたのではないでしょうか」

 視聴者のためにNetflixがWBC配信で力を入れたのは、試合の見やすさだけではなかった。中継中には、大会終了後を見越した工夫が随所に散りばめられていた。

「試合のイニング途中に広告が流れましたが、多くはNetflixオリジナル作品の予告でした。4月27日配信予定で有名占い師・細木数子さん(2021年逝去)の人生を描いた『地獄に堕ちるわよ』に主演する戸田恵梨香さん(37)は、現地リポーターの糸井嘉男さん(44)と共に試合中継にも登場。

 3月6日の日本対台湾戦では、3月10日から配信が開始された実写版『ONE PIECE』のキャストである新田真剣佑さん(29)らが始球式を行なうなど、オリジナルコンテンツの豊富さをアピールしています」(前同)

 一度掴んだ視聴者をNetflixから離さない。その強かな戦略を前出の鎮目氏は次のように分析する。

「すでに成熟した動画配信サービスが、加入者を一気に増やす方法はひとつだけ。WBCのような誰もが“絶対見たい”と思う大イベントを独占放送する以外、他に手段はないんです」

 共同通信が3月7日〜8日に行なった世論調査では、「WBCを見るために新たにNetflixを契約、もしくは契約予定」と答えたのは全体の4.9%だった。日本の世帯数はおよそ5500万世帯。Netflixは新たに約270万世帯を新規加入者として獲得したことになる。この成功が、今後動画配信サービス間でさらなる加入者の奪い合いを生むことになりそうだ。

「次回のWBCでは、他の動画配信サービスがより高い金額を払って放映権を獲得するかもしれません。将来的には、世界水泳、世界陸上など大きなスポーツイベントは有料配信が主流になる可能性がありますし、いずれオリンピックも動画配信サービス同士による争奪戦が起きるでしょう」(前同)

 動画配信サービスの王者になるための巨額投資——。Netflixの視界に、もはやテレビの姿はないのかもしれない。

【前編】地上波テレビはWBCを取り戻せるのか?Netflix配信で視聴者は前回大会と比べて半減以下でも「絶望的」な理由では、動画配信サービス全盛のこの時代にテレビ局はいかにして生き残るのかを元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏が解説している。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)