■テレビ局がプロ野球中継から撤退した背景を元キー局Pが解説
地上波キー局のプロ野球中継の現状と今後について元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏はこう見る。
「昔は、野球が開催される日はどこかの局で巨人戦の放送が必ずありました。特に日テレは巨人戦のおかげで年間の視聴率も高かった。今でも地上波で放送があるなら見たいという人は一定数いるはずです。しかし、最近はゴールデン帯にはほぼやらなくなりましたよね。
そうなってしまったコンテンツがたまに地上波でやっても野球ファンは見ませんし、野球ファンの間でも地上波は選択肢に入らなくなりましたよね。野球ファンはスカパーやDAZNなどで見るようになり、“野球を地上波テレビで見る”という考えが完全に消えているのが現状ですよね。
一方、地方局では野球中継の需要はいまだに高いんです」(以下、鎮目氏)
北海道日本ハムファイターズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、阪神タイガーズ、広島カープ、福岡ソフトバンクホークスなどの人気球団の試合は各地方局が中継を担い、地元住民から支持されている。
「地元の人気球団であれば、地元企業などのスポンサーがつきやすく、ビジネスとして成立するんです。地方では地上波で野球中継を見る習慣が残っているのが実情。一方で全国ネットではキー局が手を引いてしまいました。その理由はスポンサーがつきづらく、視聴率が取れなくなったということが大きいでしょう。
野球のメイン視聴者層はシニア世代の男性です。ただ、スポンサー企業は女性向けのCMを打ちたいんです。野球中継のスポンサーに積極的になりたいという企業の数が少ないということですね。かつてゴールデンに中継されていたプロレスの放送がなくなったのも同じ理由だと言われています」
野球中継は制作サイドにとっても頭を悩ます存在だという。
「サッカーは終了する時間が読めますが、野球は延長戦がありますからね。テレビ局は野球中継にあたり『階段編成』といって、“何時何分まで延長したらこの番組は中止する”といった編成を事前に何パターンも組む必要があるんです。さらに後番組のスポンサーにも野球中継が延長した場合を想定して事前に説明をしておかないといけません。
それに、すべてがドーム球場ならいいのですが、屋根がついていない球場は天候にも左右されますからね。中止の場合はその際の代替番組を用意しておかないとなりません。関係各所との調整など、面倒くさいことが多い割りに、試合の途中で放送時間が終わってしまったり、肝心な場面が放送できなかったら今度は野球ファンからクレームが入るわけです。
そして、野球を中継する場合、レギュラー番組を休止しないといけないですよね。そうするとレギュラー番組の視聴者からクレームが入りますし、レギュラー番組の数字にも影響が及びかねない。ドラマなどは、1週空くと見る人が大幅に減ることもありますからね。
局にしてみれば、儲からないのに、いろいろと面倒なことが多く、せっかく中継しても野球ファン、レギュラー番組のファン双方からクレームが入る可能性があると。やっても得がないコンテンツになってしまったと言えるでしょう。地方では成立するビジネスですが、全国ネットでは扱いづらくなってしまいましたよね」
WBCの地上波中継が熱望される一方、地上波キー局でのプロ野球中継の価値は、もうなくなってしまったと言えるのかもしれない。
鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)