現役時代は阪神タイガースで2度のリーグ制覇、引退後は阪神や日本代表で指導者を務めてきた矢野燿大が“マスク越しの視点”から現在の球界を徹底解説。ここでしか聞けないレジェンドOBの“生の声”を本サイト編集部がお届けする。

 2020年の秋、ドラフト会議でテル(佐藤輝明)の交渉権を引き当てたときの右手の感触は、今も記憶に鮮明に残っています。

 この年のドラフトの目玉だったテルには、1位指名でタイガースの他に宿敵である巨人、同じ関西を地元にするオリックス、そしてソフトバンクと4球団が競合しました。

 私が抽選箱へと手を突っ込んだのは2番目。“頼むからウチに来てくれ”と願いながら、直感で手にした封筒に当たりクジが入っていたわけです。それを見た瞬間に、自然とガッツポーズが飛び出していました。

 私は監督として2年間、テルを指導しましたが、ルーキー時代から打球を遠くに飛ばす能力は際立っていました。おそらく飛距離だけなら、1年目が一番飛んでいたでしょう。

 打球が私の想像を超えた高さまで上がって、そのままグングン伸びてスタンドの上段へと吸い込まれていく。私の野球人生でも、ほとんど見たことのない豪快な弾道でした。

 オープン戦で新人としてはプロ野球新記録となる6本のホームランを放つと、公式戦に入っても好調は続き、ドラフト制以降の新人選手では史上最速となる33試合目での2桁本塁打を達成。あの長嶋茂雄さん以来、63年ぶりの新人選手による1試合3本塁打もありました。