日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が、本サイトで現代の時流を徹底解説。いま戸田氏が注目するのは、飲食業界に巻き起こった「だし巻き玉子ブーム」についてだ。
物価高騰の波が食卓を直撃し、中でも「物価の優等生」と呼ばれた卵の価格跳ね上がりが止まりません。そんな逆風が吹く飲食業界において、意外なブームを巻き起こしているのが「だし巻き玉子」をメインに据えた専門店です。かつては定食の隅に添えられた脇役、あるいは居酒屋の定番メニューに過ぎなかった一品が、今や1500円前後の強気な価格設定で主役を張り、ランチタイムには行列を作るほどの盛況ぶりを見せています。
この現象を象徴するのが、大阪・天王寺にある「だし巻き玉子専門店 百花(ひゃっか)」です。もともとは経営に苦しむカフェでしたが、2024年4月にだし巻き専門店として再始動。板前歴35年の職人が、喫茶店時代のブレンダーを駆使して卵液を驚くほど滑らかにし、注文ごとに銅板で巻き上げるスタイルへと舵を切りました。
すると、卵アレルギーを持つ店主の娘ですら「薬を飲んででも食べたい」と衝撃を受けたというその味がSNSで拡散。倒産寸前だった店は、1日に100本以上を売り上げる人気店へと劇的な変化を遂げたのです。
実は、だし巻き玉子はビジネスモデルとしても非常に優秀です。卵の仕入れ価格が上がったとはいえ、肉や魚といったメイン食材に比べれば一食あたりの原価率は相対的に低く抑えることが可能。一方で、職人が目の前で焼き上げる「出来たて」の価値は高く、トッピングのバリエーションや「お重」に仕立てる演出を加えることで、1000円を大きく超える単価設定が可能になります。高級な和食店に行かずとも、プロの技術が凝縮された「黄金色の塊」を1500円程度で堪能できるという納得感が、消費者の財布の紐を緩めているようです。