■「先生の主観が入る」通知表は“個性によって偏りが生まれる”原因に
時代に合わせて形を変えながら続いてきた通知表だが、一つ根本的な課題があるという。
「通知表の評価にはどうしても先生の主観が入ってしまう。特に生活面の評価は非常に主観的です。そもそも、ルールを守る、協力するなど、先生にとって都合のいい項目が多いのも問題です」
その結果、学校での評価は個性によって偏りが出てしまう。
「例えば、世の中では立ち直りの早さや場を盛り上げる力、人と違うアイデアをひらめく力も大事です。ただ、学校生活ではそうしたものがマイナスに見られてしまうこともあります。また、個人差もありますが一般的に女子の方が有利です。話をちゃんと聞く、ルールを守る、責任を果たす、協力するといった項目は、やんちゃな男子には不利なんです」
つまり、通知表で高い評価を得るには、教師に評価されやすい行動を取る必要があるというわけだ。
また、通知表の評価は、子どもに過度な劣等感や優越感を植え付ける可能性もある。生涯教育という視点で見ると、通知表はデメリットも大きい。
「“できなかったことができた。わかるようになった”という勉強の本質的な楽しさを味わえた子は、大人になっても進んで勉強します。しかし通知表や偏差値ばかり重視していると、勉強は良い点を取るためだという刷り込みを与えかねない。これだと大人になって勉強しなくなります。日本の大人はリスキリングへの意欲が乏しいというデータもあります」
また、もう一つ、通知表をなくす動きが進む背景には、“教師の業務負担の軽減”という狙いもあるという。
「通知表の作成には膨大な時間がかかります。そのため先生たちは、授業の準備や子どもたちと触れ合う時間を奪われています。先生たちの負担が減れば、子どもたちと関わる時間が増えるでしょう」
教師と子どもが向き合う時間が増えることは、子どもの成長にとって大きな意味を持つ。
「子どもにとって親子関係の次に重要なのが先生との関係です。先生といい人間関係ができれば、子どもは“自分以外の人は信頼していい”という他者信頼感を持ちます。逆に先生との人間関係が悪いと、人間不信につながってしまうこともある。子どもが先生と良好な人間関係を築くことは、人間形成においてとても大切なんです」
今後、通知表の廃止は全国的に広がる可能性が出てくるかもしれないが……それには、少し時間がかかるかもしれない。
「保護者の間では、いまだに通知表を求める声が根強いです。これまで当たり前にあった評価がなくなることで、子どもの学習レベルがわからなくなるという不安を感じる人も多いようです」
教育に正解はないというが、現場はこの通知表とどう向き合っていくのだろうか。
親野智可等(おやの・ちから)
教育評論家。公立小学校での23年間の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案している。『親の言葉100』『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』などベストセラー多数。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。