■他球団を出し抜き5位指名に小躍り

 ところが、4年秋の中央大学との開幕戦に先発した際、4回に腕の張りを訴えて緊急降板。その後、右前腕の肉離れが判明し、そのままリーグ戦を終えることになります。

 この段階で評価はガクンと落ちてしまい、多くの球団が村上の指名を見送りました。タイガースも例外ではありませんでした。

 しかし、私は諦めきれませんでした。旧知の東洋大OBからも「村上は心配ない」と聞いていましたし、この投手なら、やってくれるという確信があったからです。

 私は球団に「もし、ケガがなかったら、村上は、どの程度の評価だったのか」を聞かせてもらいました。「3位で消えるでしょう」というのが球団の考えでした。そこで、こう提案しました。

「5位指名で行くことはできませんか」

「分かりました。監督、それで行きましょう」

 こうして村上の指名が決まったのが、ドラフト前日。事前にヤクルトとオリックスが東洋大の練習を視察したとの情報が入っていたため、思惑通り村上を5位で指名できたときは、自然と小さなガッツポーズが出ました。

 そんな村上が頭角を現したのはプロ3年目の23年。先発ローテーションの谷間だった4月の巨人戦に先発。7回完全投球を披露し、ここから一気にスターダムを駆け上がります。

 最終的には2桁勝利を飾り、タイガースは日本一。MVPにも輝きました。昨シーズンも最多勝、最高勝率、最多奪三振の「投手三冠」を達成。リーグ優勝にも貢献しました。今では立派な“虎のエース”です。

 そんな村上は、近本光司と同じ淡路島の出身。地元選手が活躍すると、ファンは盛り上がります。地域密着はプロ野球人気を支える重要な要素です。

矢野燿大(やの・あきひろ)
1968年12月6日生まれ。90年ドラフト2位で中日ドラゴンズへ入団。97年オフにトレードで阪神タイガースへ移籍すると、正捕手としてチームの躍進を支え2度のリーグ優勝に貢献。