■確実に遭遇リスクが上がっているのはイノシシ
クマが今年も猛威を振るうかは未知数だが、過去にメディアで取り上げられた“危険生物”は数多く存在する。その生物たちが現在どうしているのか、それを探るべく、前出のパンク氏に話を聞いてみた。
2023年に世界的に被害が報告された「トコジラミ」。実は最近の害虫ではなく、古くは平安時代から“南京虫”として日本にも存在する。殺虫剤の進化もあって、一時はほとんど姿を消していたが、
「コロナ禍が明け、訪日外国人の増加とともに再び日本に侵入したのでしょう。いまだ完全に姿を消していませんが、過度に不安に思う必要もなし。“シラミ”と異なりカメムシの仲間である彼らは、刺されると痒みや発熱の他、チリチリとした痛みがありますが、病気を媒介するなどのデータは報告されていません」
殺虫剤に強い耐性がある「スーパートコジラミ」も発見されているものの、使用する殺虫剤の成分や製品を複数回変えながら使用することで、ある程度の対策も可能。旅先から持ち込まないようにすることが大切だという。
海外からやってきたと話題になった危険生物は他にも。2017年に近畿地方を中心に発見が相次いだ「ヒアリ」だ。輸入された材木や貨物のコンテナについて日本に入り込んでしまうのだという。
「ヒアリの毒は細胞膜を溶かし、名前の通り“燃えるような”痛みをもたらします。1匹から注入される毒は極少量なので、直接的には猛毒とは言えないかもしれませんが、アレルギー体質の人にとってはアナフィラキシーショックが発生する恐れがあります」
2026年現在、ヒアリは日本に定着していない。国が調査、駆除を行っていることも大きな理由だが、日本の気候も影響しているという。
「ヒアリは南米原産と暑い地域の生き物ですから、通常なら日本の冬は気温が低すぎて越冬できないはず。今の時点では繁殖も難しいのではと考えています」
2014年、東京・代々木公園で「デング熱」騒動を引き起こした「ヒトスジシマカ」だが、実態は日本各地に生息するお馴染みの“ヤブカ”だ。
「デング熱は暑い地域の風土病ですから、訪日外国人や海外旅行帰りの人間からウイルスが媒介されたと考えられます。蚊は水辺ならどこでも繁殖できますし、完全駆除はほぼ不可能です」
さらに今年はエルニーニョ現象で例年以上に夏が猛暑になる可能性もある。そうなると、デング熱や他の熱病を媒介する蚊が蔓延してもおかしくないという。
「例えば、国外から持ち込まれたスーツケースなどにマラリアを媒介する蚊が混入した場合。蚊にとって過ごしやすい気候が続くので、リスクが増すことが考えられます」
では、2026年に新たに警戒すべき生物とは何か――。パンク氏が予想する。
「今年はイノシシでしょうね。人間が環境保全に励み、狩猟も行われなくなった今、クマより頭数の多いイノシシはさらに数を増やしていることでしょう」
クマの力の強さを取り上げられることが多いが、イノシシがさらに厄介な理由は、その獰猛さだ。
「鋭い牙で突っ込んできては離れる戦法を取るオスのイノシシは、クマと闘っても勝るほど。本来なら淘汰される個体も人間の生活圏では生き延びやすいですし、遭遇リスクは確実に上がっていると思います」
“危険生物”は思ったよりも近くに。人間と野生生物のせめぎ合いは今年も止むことはなさそうだ。
パンク町田(ぱんく・まちだ)
1968年8月10日生まれ。東京都出身。動物研究家。NPO法人生物行動進化研究センター理事長。最も好きな動物は犬。ムツゴロウさんこと畑正憲(はたまさのり)から「犬のことをもっと勉強しなさい」という言葉を励みにしている。犬の訓練士でもあり、愛玩犬のしつけ、猟犬、バンドッグ(護衛犬)、闘犬の訓練も行う。父が中華料理店を経営していた影響で当初は料理人を目指していたが、動物に関わる仕事を諦めきれずトリマーの専門学校に進学した。ペットショップ勤務ののち21歳で独立、爬虫類のバイヤーなどを務めた。1992年から動物の専門誌などで執筆活動を始めた。人気著書多数。