日々、“日本の今”を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏。今回戸田氏が注目するのは、生成AI(人工知能)を活用した就職活動について。学生側と企業側、それぞれの思いとは――。
日本の新卒採用のあり方が、テクノロジーの普及によって大きな転換期を迎えています。Z世代の就活生にとって、生成AI(人工知能)を活用したエントリーシートの作成や企業研究は、もはや最低限の作法となりました。ChatGPTやGeminiなどのツールを駆使し、自分の自己PRに合致する企業をAIに提案させ、そのままAIが生成した文章で次々と応募を繰り返す。この「とりあえずエントリー」、通称“とりエン”の一般化により、企業側の手元にはAI製の整った、しかし顔の見えない応募書類が溢れかえっているのが現状です。
こうした「AI就活」の浸透は、就活生側に深刻な問題をもたらしました。それが“個性の埋没”です。AIは客観的な情報を整理するのは得意ですが、学生一人ひとりの温度感までを再現することまではできません。誰が書いても正解に近い「同質化」された書類では、数千人が競う人気企業の選考を突破するのは至難の業でしょう。
ネット上でも、「AIを使えば使うほど、自分がどんな人間か分からなくなってきた」「とりあえずエントリーしまくったけど、本当の自分を見てもらえている気がしない」「AIが推奨した企業ばかり受けていたら、面接で話すネタがなくて詰まった」といった、効率化の副作用に苦しむ声が噴出しています。
こうした状況を受け、企業側も選考のあり方を根本から変え始めています。象徴的なのがロート製薬の決断です。2027年4月入社の新卒採用において、同社はエントリーシートを事実上廃止し、応募者全員と15分間の面談を行う「Entry Meet採用」を導入すると発表しました。文字情報では判別できない「その人らしさ」を直接対話によって見極めようというのです。また、企業情報の「届け方」も変化しています。AIが就活生の相談に対して自社を正しく推薦できるよう、求めるスキルや社風を具体的なテキストデータとしてWeb上に整理する「AEO(AI検索最適化)」という戦略が注目され、企業側の情報発信のあり方が問われています。