日本競馬界のレジェンド・武豊が名勝負の舞台裏を明かすコラム。5月16日の新潟大賞典ではシュガークンに騎乗予定の、彼のここでしか読めない勝負師の哲学に迫ろう。
(以下の内容は2026年5月11日に寄稿されたものです)
5月25日、東京競馬10R鎌倉Sのパドックは、異様なほどの熱気に包まれていました。
GIレース以外でこんなに盛り上がったのは、負けても負けても懸命に走り続ける姿にファンが熱狂した、高知競馬のハルウララに騎乗したとき以来かもしれません。
主役は71歳の新人厩務員。GI22勝を含む、JRA通算1123勝を挙げた名伯楽、国枝先生……正確に言うと、元調教師ですが、競馬サークルで育ててもらった僕らにとっては、やっぱり先生です(笑)。
ヘルメットを被り、真っ白なワイシャツにネクタイ姿の先生が、担当するトクシンカイザーとパドックを周回すると、一斉にシャッター音が鳴り響きます。
号令がかかって、先生の元に小走り。「新人だから頼むよ」と言われても、何て答えていいものか(笑)。
「ゲートまで馬を引っ張ったことはあるんですか?」
「初めてだよ」
ゲート裏で交わす会話も、ジョッキーと厩務員のそれではありませんでした。
先生……じゃなかった、71歳の新人厩務員から託されたトクシンカイザーは、掲示板を確保する5着でフィニッシュ。
デビュー戦で勝利をプレゼントできなかったのは残念でしたが、馬と一緒に馬運車で競馬場入りし、一番近いところで馬を見ていたいという先生の熱い思いは伝わってきました。僕が言うのもなんですが、将来有望な新人です(笑)。
オールドルーキーから大きな刺激をいただいて臨んだのが、皐月賞に3頭出しした上原祐紀厩舎、コントレイル産駒のゴーイントゥザスカイと挑んだGII青葉賞です。