あなたは1日の間で、スマホを見る時間と見ていない時間のどちらが多いだろうか。電話も、財布も、地図も、時計も、音楽も、動画もすべてスマホの中に入っている。仕事もプライベートも、私たちの生活は、もはや”ながらスマホ”どころではない。だが、その便利さの代償もある。

「近年、スマホなどのデジタル機器を長時間、近距離で見続けることで目が内側に寄ってしまう後天共同性内斜視が問題視されています。症状の特徴は、ものが二重に見えること。単なる疲れ目による症状ではなく、目の向きの異常によって表れる症状です。軽度であれば電子機器の使用制限で改善するケースもありますが、重症化すると手術が必要になることもあります」(医療ジャーナリスト)

 だが、スマホに壊されるのは目だけではない。スマホが本当にむしばんでいるのは、情報を処理し、記憶し、考え、言葉にするための「脳」だという。おくむらメモリークリニック理事長で、『10万人の脳を診てきた脳神経外科医が教える脳を休めて整える習慣』(三笠書房)などの著書を持つ脳神経外科医の奥村歩医師は、現代人の脳に起きている異変を、こう説明する。

「現代人は、無駄な情報を入れすぎて脳がゴミ屋敷のようになっています」(以下、コメントは奥村氏)

 奥村医師によれば、現代人の脳には、かつてとは比較にならないほど大量の情報が流れ込んでいるのだという。

「今のデジタル社会は、圧倒的に情報量が多すぎます。私がよく使う表現ですが、江戸時代の人一生分の情報を、現代人は1日で脳にインプットしているような状況です」

 同クリニックでは、20年前から「もの忘れ外来」という窓口を設置している。かつて、もの忘れを訴えて病院を訪れるのは80代以上の認知症の高齢者が中心だった。ところが、この10年ほどで患者に変化が起きているのだそうだ。

「最近では、30代から60代の働き盛りの方が、もの忘れや集中力の低下を訴えて来院されるケースが増えています。書類を読んでも内容が頭に入らない、人と話していて言葉が出てこない。そうした症状の背景にあるのは、スマホによる“脳疲労”です」

 奥村医師は、こうした状態を「スマホ認知症」と呼んでいる。スマホによる情報過多によって記憶力や集中力、判断力が落ち、まるで認知機能が低下したような状態になるのだ。

 では、1日何時間以上スマホを使うと危険なのか。すると、奥村医師からは意外な答えが返ってきた。

「仕事のためなど、目的があって使うのであれば、長時間の使用も問題ありません。問題なのは、目的もなくダラダラとスマホを使うことです。不要な情報を浴び続けることで、脳が疲れてしまうのです」

 奥村医師は、これを食生活にたとえる。

「スマホ依存症が脳に与える影響は、暴飲暴食が体に与える影響と同じです。日本人が長寿なのは、腹八分目にしたり、野菜を食べたり、食べ物に気を遣っているからです。でも、情報が脳に与える影響に関しては無頓着。ダラダラとスマホを見ることは、寝転びながらポテトチップスを食べ続けているような状態なんです」

 脳が疲れるメカニズムには、脳内物質も関係している。奥村医師が注目するのが、ノルアドレナリンだ。

「ノルアドレナリンは、生き物が敵を前にしたときなど、戦闘状態で分泌される物質です。私はこれを“仕事物質”と呼んでいます。集中したり、作業したりするときに必要な物質ですが、スマホ依存の人は、このノルアドレナリンをスマホによって浪費しています」