■積極的にぼんやりしたほうがいい
SNSには、ショート動画や炎上ニュース、芸能人のスキャンダルなど、刺激の強い情報があふれている。不安や怒りを刺激された脳はそのたびに反応し、ノルアドレナリンを無駄使いする。
「車でいえば、ガソリンを無駄に使っている状態です。自分にとって意味のない道ばかり走っているうちに、肝心なときにガソリンがなくて発進できない。ノルアドレナリンは一晩寝るとある程度回復しますが、1日に使える量には限りがあります」
その結果、本当に集中しなければいけない場面で頭が働かなくなる。資料を読んでも入ってこない。プレゼンで言葉が出てこない。そもそもやる気が出ない。こうした症状は、単なる怠けではなく、脳のガソリン切れなのだ。
さらに脳疲労は、頭の働きだけでなく、体や心にも影響するという。
「脳疲労の症状は大きく3つ。1つ目は、情報処理能力が低下して、仕事の能率が悪くなること。2つ目は、体調が悪くなることです。原因不明の頭痛や腰痛、胃の不調、下痢なども脳疲労が引き起こしている場合があります。そして3つ目は、気分の問題です。鬱っぽくなったり、イライラしたりする。体の疲れも心の疲れも、脳疲労として考えることができます」
では、脳疲労を避けるためにはどうしたらいいか。
「まずは必要以上にスマホを見ないことです。脳の情報処理は、インプット、整理整頓、アウトプットの3段階で成り立っています。本来、ぼんやりしている時間に情報が整理整頓されるのですが、現代人はスマホの見過ぎによってその時間を失っています」
怠けた姿に見えるだろうが、脳の機能を取り戻したいなら積極的にぼんやりした方がいい。
「ノルアドレナリンを充電させるために大事なのが、幸せ物質と呼ばれるセロトニンです。セロトニンは、ぼんやりしているときに分泌されます。自然に触れたり、雲を見たり、新緑を眺めたりすることでも分泌されます。満員電車の中でもスマホを見るのではなく、今日の雲を探してみる。そういうことが大切です」
奥村医師によれば、特に脳を疲れさせるのは視覚情報。スマホの画面から目を離し、匂いや音、風の感覚に意識を向けることが、脳の回復につながる。
「公園に出て、夏の青臭い匂いを感じたり、鳥の声を聞いたりする。ウォーキングやスイミング、サイクリングのようなリズム運動もいいですね。リズム運動によってもセロトニンが出るので、脳の整理整頓が進みます」
スマホは、もはや生活から切り離せない。だが、便利だからこそ、使い方を間違えれば、目も脳も静かにむしばまれていく。スマホを手放す時間は、ただの休憩ではない。疲れ切った脳を片づけ、本来の自分を取り戻す大切な時間なのだ。
奥村歩(おくむら・あゆみ)
脳神経外科医。おくむらメモリークリニック理事長。岐阜大学医学部卒業、同大学大学院博士課程修了。アメリカ・ノースカロライナ神経科学センターに留学後、岐阜大学附属病院脳神経外科病棟医長併任講師等を経て、2008年に「おくむらクリニック」を開院。もの忘れ外来を中心に、これまで10万人以上の脳を診断。「スマホ認知症」や脳疲労についても警鐘を鳴らしている。著書に『10万人の脳を診てきた脳神経外科医が教える 脳を休めて整える習慣』(三笠書房)など。