散歩中、電柱や塀に向かってシャーッとおしっこする愛犬。すかさず飼い主はペットボトルの水をチョロッとかける――。今や日本中でよく見かける“水かけエチケット”だが、近年、ネット上では、

《あんな少量の水で意味あるの?》
《ただの“やってますアピール”では?》
《逆に汚れの範囲が広がるだけ》

 などといった疑問の声が上がっている。

 その一方では、「犬のおしっこで信号機や電柱が腐食し、最悪の場合は倒壊することもある」という物騒な話まで飛び交うなど、犬のおしっこ放置には厳しい声も……。

 まさに“水かけ論争”となっているのだ。

 実際のところ、“水チョロ”はどこまで効果があるのか? そして本当に構造物を腐食させるほどの威力が犬の尿にはあるのか? この論争に終止符を打つべく、まねき猫ホスピタル院長の石井万寿美氏に質問状を送った。

 まず石井氏は「犬の尿に水をかける行為は、主に衛生面と社会的マナーの観点から広まったもの」と歴史的経緯から解説する。

「犬の尿には尿素やアンモニアが含まれ、時間が経つと悪臭の原因となるほか、乾燥と再湿潤を繰り返すことでコンクリートや金属にダメージを与える可能性があります。そのため散歩中に水で流すことで臭いの軽減や周囲への配慮を目的としています。日本では都市部を中心に、公共空間を清潔に保つ意識の高まりとともにこの習慣が定着しました」(石井氏=以下同)

 気になるのは、「尿が構造物を破壊する」という不穏な噂だ。実際、2021年2月には三重県鈴鹿市で電柱が根元から折れ曲がって倒壊する事故が発生。調査の結果、通常の電柱の数十倍もの尿素が検出され、犬の尿による腐敗が原因であると結論づけられた。

「確かに犬の尿に含まれる塩分やアンモニアは金属の腐食やコンクリートの劣化を促進する要因となり得ます」

 石井氏はそう認めつつも、冷静な分析を加える。

「しかし、電柱が倒壊するほどの影響を与えるには、長期間にわたり大量の尿が集中してかかり続ける必要があり、通常の環境では単独の原因になることは考えにくいです。実際には経年劣化や風雨、地盤の状態など複合的な要因が重なって劣化が進むため、尿はあくまで一因に過ぎません」

 どうやら犬のおしっこだけで倒壊するというわけではなさそう。では、あの申し訳程度の“水チョロ“に実質的な効果はあるのか。

「まず尿中のアンモニアや有機物を希釈・洗い流すことで、悪臭の発生を抑えられます。少量の水でも臭気は大きく軽減され、周囲への配慮として有効です。また、乾燥して結晶化した尿成分が再び湿気で臭うのを防ぐ意味でも、早めに流すことには意義があります」

 一部では、「犬の尿1滴に対し、水で完全に流すには2リットルが必要」という意見もあるが、これに対して石井氏は否定的で、犬の尿に水をかける行為には一定のメリットがあるとのことだ。