■マナーどころか、法的問題に発展したケースも

 しかし一方で、このような良かれと思ってやっている行為が、実は火に油を注いでいるケースがあると、前出の石井氏は指摘する。

「水をかけることで尿が周囲に広がり、結果として汚染範囲が拡大する可能性もあります。特に壁や塀では、浸み込んだ尿が広がり、かえって臭いが残るケースも。また、水分が加わることで雑草やコケの発生を促し、自宅前で繰り返されると住民トラブルに発展することもあります」

 つまり、水かけは万能な対策ではなく、場所や状況に応じた配慮が重要ということになる。さらには「水さえかけておけばOK」いう飼い主の意識が排尿場所のコントロールを軽視させる懸念もある。

「本来は排尿場所を選ぶ“しつけ”を優先し、やむを得ない場合に限定して水を使うというバランスが望ましいと言えます。ペットボトルを持ち歩く姿勢はマナー意識の表れですが、それに頼りすぎてはいけません。リードを短く持ち、排尿してよい場所を意識的に選ぶこと。マーキング行動を助長してしまう散歩の仕方にも課題があり、できれば自宅で排泄を済ませてから外出する習慣づけが望ましいです」

 さらに事態は“マナー”の範疇を超え、法的リスクにまで発展する可能性があるという。石井氏は、最近の象徴的な事件を例に挙げる。

「今年4月、大阪市内でハトやカラスへ餌やりを繰り返していた人物が動物愛護法違反の疑いで書類送検されました。20年施行の改正動物愛護法では、給餌や給水によって騒音や悪臭が生じて生活環境が損なわれた場合、行政が措置を命じることができるようになったのです。この点を踏まえると、個人宅の前が日常的な排尿場所となり、悪臭で生活環境が破壊された場合、飼い主が法的責任を問われる可能性も否定できません」

 “動物への配慮”と“人への配慮”のバランスが求められる中、飼い主一人ひとりの意識と行動が地域全体の受け入れ環境を左右することになりそうだ。

石井万寿美(いしい・ますみ)
大阪市生まれ。1986年、酪農学園大学大学院獣医研究科修了、動物病院勤務を経て、大阪市守口市に『まねき猫ホスピタル』を開業。臨床獣医師として、日々犬や猫を診察。その一方でアニマルライターとして、朝日新聞、毎日新聞、雑誌『愛犬の友』『キャッツ』などにも連載。著書に『ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日』(青土社)など。