■接触事故が頻発で規制の波が押し寄せても

 日本での利用が極めて限定的な電動スーツケースだが、実際に海外ではどのように使用されているのか。

「中国や東南アジア、中東などの主要空港では、空港内の移動距離が長いことから、電動スーツケースは効率的な移動手段として比較的寛容に受け入れられてきました。特にSNSによる拡散が普及を後押しし、若年層やビジネス層が新しい旅のスタイルとしてブームをけん引してきた背景があります」(以下、「」内は佐藤氏)

 国内で目撃された外国人の多くがアジア系だったのは、こうした事情からだろう。だが、その寛容さも時代とともに変化しているようだ。

「電動スーツケースが普及したことによって、世界各地で歩行者との接触事故や通路の占有といった問題が発生しています。そのため現在では、さまざまな施設で急速に規制の波が押し寄せています」

 電動スーツケースの規制は、走行だけではない。

「まず、バッテリーが取り外せないタイプの電動スーツケースは、ほとんどの航空会社で預け入れも機内持ち込みも一切できません。手荷物として預ける場合はバッテリーを必ず本体から取り外し、バッテリーのみを機内に持ち込みます。機内持ち込みする場合はバッテリー容量が160Wh以下かつ2個までであれば持ち込み可能とされる場合が多いですが、160Whを超えると持ち込みできません。また、機内コンセントでの充電や使用も原則禁止となりました」

 2018年頃から普及し始めた電動スーツケースは、こうした一連の規制によって一時は市場が縮小しつつあるのだが、その一方で新たな動きを見せている。

「次世代型として注目されているのが“電動アシスト型スーツケース”です。電動アシスト型は、見た目は普通のスーツケースですが、センサーで負荷を検知し、モーター内蔵のキャスターが重い荷物の運搬を助けてくれます。電動スーツケースは、高齢者や長距離移動者向けのアイテムとして再定義され始めています」

 中には所有者を自動追尾する機能を搭載したモデルも登場するなど、電動スーツケースは、乗り物から移動のストレスを軽減させるアイテムへと進化しつつある。

 空港内でスーツケースが市民権を得る時代が来る日は、そう遠くないのかもしれない。

スーツケースの伝道師 佐藤宏樹
トラベルグッズを愛してやまない「スーツケースの伝道師」。舞台業界を経て、雑貨業界でトラベルグッズやレイングッズの仕入れ・商品開発に携わる。その経験を活かし、現在は個人で「スーツケースの伝道師」を名乗り活動。趣味で始めたスーツケースや旅行用品への愛をSNSで発信し、テレビや雑誌を通じて旅の楽しさを伝えている。業界を盛り上げるため「旅道具大賞」を主催。自宅には30台以上のスーツケースを所有。