■「嘱託警察犬」は犬種に指定はない
「イノシシやクマに立ち向かうことを仕事としてきた日本犬は、より独立心や気の強さを求められてきました。同じく猟犬出身であり、警察犬としても多いプードルやラブラドール・レトリバーは撃ち落とした獲物を忠実に回収する“鳥猟犬”なので、作業犬としても得意なものが異なるんです」
冒頭でも触れたドーベルマンやシェパードをはじめ、警察が直接管理・運用する「直轄警察犬」は7犬種が認定されている。一方、有事の際に出動する「嘱託警察犬」は犬種に指定はなく、今回の柴犬以外にも多くの犬が登用されている。
実際、2月20日には千葉県警で小型犬のジャック・ラッセル・テリアが初めて嘱託警察犬に任命され、4月13日には宮崎県でもポメラニアンが警察犬に任命されるなど、小型犬の警察犬も徐々に登場しているというのだ。
「犯人を制圧するなどのイメージがあるかもしれませんが、足跡追及や捜索活動など警察犬の仕事は様々。崩壊した家屋やがれきの中など狭い場所での捜索は、小型犬のほうがむしろ向いているといえますし、馴染みのある犬種が多いので対象者にも威圧感を与えません。ビーグルやトイプードルなどの警察犬が活躍した事例は少なくないんですよ」
ちなみに、嘱託警察犬は民間の訓練士や一般家庭で飼育されている犬で構成されている。つまりは“うちの子”が警察犬にチャレンジすることも可能だというのだ。
「臭気選別能力や服従訓練など、審査会では難しい項目を通過する必要があり、プロの訓練士が含まれる中でも合格率は2~3割とハードルは高め。一方で、子犬からの訓練がなくても素質と的確なトレーニングがあれば警察犬になれる子も珍しくありませんから、挑戦する敷居は高くないという側面もあります」
警察犬に必要な性格は、“動じない精神の安定性”と“社会化がなされていること”、そして“欲をもっていること”だ。
「ただ穏やかな子、というよりは、玩具やおやつなどに対する欲求がある犬の方が向いている印象があります。訓練士が、その子の欲をきちんと掌握してあげることで、忍耐力や集中力に繋げることができるんです。もちろん、犬種だけで適性が決まるわけではありません。個体の性格、育成環境、社会化、そして指導手との信頼関係によって、警察犬としての可能性は大きく変わります」
今後、“かわいい警察犬”が身の回りにも増えていくだろうと、松尾氏は言う。
「嘱託警察犬は普段一般のご家庭で飼育されていますから、ペットに小型犬が主流になっている現在では、さらに“コンパニオンドッグ”の警察犬が増えていくでしょう。愛される警察犬が今後も増えていったら嬉しいですね」
人命救助や事件捜査の最前線に、身近な犬種が活躍していくようになるなら。“共働き”ならぬ、ペットまで働くようになる未来はそんなに遠くないのかもしれない。
松尾邑仁/ゆうと先生
日本警察犬協会公認訓練士・経営者・犬の教育者(犬しつけ専門家)
幼少期の愛犬のしつけにおける挫折経験を機に、ドッグトレーニングの道を志す。ドッグトレーニングの専門学校を卒業後、ドッグトレーニング先進国であるオーストラリアへ留学。帰国後は国内最高峰の実績を誇る「中央警察犬・家庭犬訓練学校」にて修行し、家庭犬や警察犬のトレーニングにとどまらず、麻薬探知犬の育成、ブリーディングなど犬に対する幅広い知見を深める。15 年以上のキャリアを持ち、修行時代の経験と最新の動物行動心理学を融合させた独自のメソッド「褒める犬のしつけトレーニング」(褒めトレ(R))を確立。
現在は、株式会社東京 DOGS の代表取締役として、ペットサービスを複数事業展開。SNS を活用した情報発信にも注力しており、公式 YouTube チャンネル『犬しつけ TV-ゆうと先生-』を運営し、多くの愛犬家と繋がりを築いている。その他テレビ等メディア出演も多数。著書:『褒めトレ(R)ゆうと先生が教える「褒める」犬のしつけ完全ガイド