■育成契約から復活 ガラスの男の逆襲

 そんな遥人のもう一つの魅力は、内面の強さでしょう。左腕に5回メスを入れ、育成契約も経験した男です。そこから一軍の舞台にはい上がってくるんですから、並大抵ではありません。

 その片鱗は、マウンド上の姿からも感じます。ふだんはおとなしく柔和ですが、ひとたびマウンドに上がると、人が変わったように強気になる。それが表情に出るわけではありませんが、「打てるもんなら、打ってみろ」という攻撃的なピッチングは、ベンチで見ていても頼もしいかぎりでした。

 つまり、遥人にはピッチャーに必要な要素が、すべて備わっているわけです。

 育成契約になる前年、21年は、私が監督を務めていたので、よく覚えています。

 この年の遥人は、シーズン終盤7試合に先発し、2完封。「遥人が1年フルに投げてくれたら」と思ったことは、一度や二度ではありません。

 そんな遥人が、今季は開幕から好調です。藤川監督も登板間隔を考慮しながらシーズンを通して投げさせるでしょう。故障なく1年間ローテーションを守ったら、どんな成績を残すのか。今からとても楽しみです。

 12球団イチとも言われるタイガースの先発陣。これを支えるのは、もちろん遥人だけではありません。

 右のエースは才木浩人でしょう。昨年が12勝で一昨年が13勝、防御率はともに1点台。先発投手として一番大事なシーズンを通して成績を残すことができています。今季は2試合連続KOもありましたが、どんな好投手も打たれるときは、こんなもんです。

 向上心も高い。オフには得意のフォークの握りを変え、さらに精度を上げ、鋭く落ちるようになりました。

 その成果が4月6日のヤクルト戦、1試合で16奪三振の快投を見せました。ベンチが日本記録(19奪三振)に気づかず、8回降板となったのが悔やまれます。もう一丁、見たいですね!

矢野燿大(やの・あきひろ)
1968年12月6日生まれ。90年ドラフト2位で中日ドラゴンズへ入団。97年オフにトレードで阪神タイガースへ移籍すると、正捕手としてチームの躍進を支え2度のリーグ優勝に貢献。